森と木と人のつながりを考える

 

水辺林管理の手引き
基礎と指針と提言

渓畔林研究会(編)

A5判  210ページ 並製
定価 2,200円 (本体価格 2,000円)
ISBN978-4-88965-127-0 C3061
絶版

奥付の初版発行年月 2001年12月
書店発売日 2001年12月10日

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解説

日本で初めての指針を作成。川や湖の環境を守る森林づくりガイドライン。

紹介

水辺林の適切な保全と管理に向けて、現場で役立つ実践的な指針を初めて策定しました。生態・機能などの基礎知識から現在進められている事例解説まで、すべてがわかるガイドブックです。

目次

第1章 水辺林−その生態と役割
 第1節 水辺林とは何か
  1.水辺林の定義
  2.水辺林の特性
  3.水辺林の種類
  (1)渓畔林
  (2)山地河畔林
  (3)河畔林
  (4)湿地林
  (5)湖畔林
 第2節 水辺林の構造と動態
  1.多様な水辺の撹乱様式
  2.立地環境の多様性と樹木の適応
  3.水辺林を構成する樹木
  (1)ヤナギ類
  (2)トチノキ・サワグルミ・カツラ
  (3)ハルニレ・オヒョウ
  (4)シオジ・ヤチダモ
  (5)フサザクラ
  (6)ハンノキ
  4.撹乱と水辺林の更新
 第3節 水辺林の生態学的機能
  1.日射遮断
  2.落葉・落下昆虫の供給
  3.倒木の供給
  4.栄養元素の交換
  5.粒状流下物の補足
  6.野生動物の生息場環境
 第4節 水辺林の現状と問題
  1.原生的な流域環境の消失
  2.変貌する水辺林(渓畔林・河畔林)
  3.破壊の進む湿地林
  4.水辺域のエセ自然的修復

第2章 水辺林管理の基本理念
 第1節 ランドスケープ(景観)管理
  1.水辺林のネットワーク化
  2.道路の配置
 第2節 流域管理
  1.水辺林における更新動態の維持
  2.生態学的機能の保持
  (1)日射遮断
  (2)リター(落葉)および倒木の供給と流下
 第3節 林分管理
  1.水辺管理区域の設定と目的
  2.水辺管理区域の範囲
  (1)生態学的機能を発揮させるための水辺林の基準幅
  (2)水辺管理区域の範囲基準
  3.水辺管理区域の流域上の配置
  4.林分管理計画の手順と水辺域植生自然度区分
  5.水辺管理区域内における林分管理の基本方針
  (1)植生タイプ別の基本的管理方針
  (2)水辺管理区域内での基本的禁止事項
  (3)林道・作業未道の開設,架設の設置
  (4)治山施設
  (5)レクリエーション施設
  6.水辺管理区域の隣接地における森林施業

第3章 水辺林管理の指
 第1節 水辺林の保存・保護指針
  1.流域レベルで原生的な植生が残存する場合
  2.原生的な水辺域植生が連続して残存する場合
  3.林分レベルで自然度の高い水辺域植生が残存する場合
 第2節 水辺林の修復・再生指針
  1.水辺林修復・再生計画の手順
  2.水辺域が潜在植生と種組成の類似した二次林の場合
  3.種組成上,潜在植生と類似していない二次林の場合
  4.水辺域が人工林の場合
  5.水辺域に外来樹種が優占する場合
  6.水辺域が無立木地の場合
 第3節 水辺域生態系の復元指針
  1.水辺林の連続性の回復
  2.陸水生態系の断絶対策と河川・湖沼撹乱体制の回復

第4章 水辺林管理の実際−各地の事例から
  1.水辺林の連続性の回復—パイロットフォレストの事例—
  2.治山施設周辺での水辺林の再生—埼玉県秩父地域の事例—
  3.人工林地帯での水辺林の復元—茨城県七会村大沢の事例—
  4.水辺植生の再生事業—茨城県桂村の事例—
  5.シカ採食圧下での水辺林の保全・再生事業—栃木県日光市奥日光の事例—

第5章 これからの水辺林管理−課題と提言
  1.水辺林の学問的解明とその普及を進めるために
  (1)水辺林に関する総合学術調査の必要性
  (2)試験的な水辺林管理事業とモニタリング
  (3)生態学的機能に関する教育・普及活動の推進
  2.林業(木材生産)と水辺林管理を両立させるために
  3.治山・砂防事業の新しい方向
  4.内水面漁業,市民との連携強化へ
  (1)内水面漁業の位置付け
  (2)市民参加のあり方

第6章 水辺林への招待−日本の代表的な水辺林
  1.ケショウヤナギを中心にした河畔林—歴舟川
  2.日本最大のケショウヤナギ群生地—札内川
  3.多様性に富んだ森林群集—カヌマ沢渓畔林試験地
  4.圧倒的な個体数のシオジ林—大山沢渓畔林試験地
  5.日本を代表する貴重な山地河畔林—上高地梓川
  6.原生的山地渓畔林が残る—京都大学芦生演習林
  7.自然度の高い暖温帯の山地渓畔林—屋久島

前書きなど

 アジアモンスーン地帯の東端に位置する日本列島は,温暖多雨な気候に恵まれ,多様な森林が発達し,その中を無数の細流,河川が血脈のように流れ下り,流域に豊かな自然環境を形成してきた。こうした自然環境の下で,日本列島では古くから「森の文化・水の文化」と呼ばれる森林や水資源を高度に利用した人々の営みがなされてきた。しかしながら,明治以降の急速な近代化と工業化,特に戦後の高度経済成長期の中で, 急激な森林開発と土地利用の変化が進み,木材生産を担う人工林が広がる一方,自然林(天然林)が失われ,豊かな自然環境が損なわれる事態となっている。とりわけ河川,湖沼と一体となった水辺域で自然環境が失われ,流域,河川環境が大きく変化し,水辺域を主な生息場所とする豊かな生物相の存在が脅かされるに至っている。
 本来,森林は,木材生産を図る土地産業の場にとどまらず,国土保全,水源かん養など公共的な性格が強く,森林を管理・経営するにあたっては,経済性だけでなく,森林の持つ公益的機能,さらに生態系としての健全性・安定性,生物多様性の確保などに努めなければならない。しかし,残念なことに,これまでこのような視点に立った森林の管理・経営が行われてきたかと言うと,必ずしも胸を張れる状況にはない。特に,河川や湖沼およびその周辺環境への配慮は,ほとんどなされてこなかったのが実状である。
 今日,河川と湖沼周辺の水辺域における森林(水辺林)は,河川流域での森林開発,土地利用の変化,治山・砂防事業の展開,水資源開発などによって,かつての姿を失いつつある。その一方で,流域保全や河川環境保護,内水面漁業そして生物多様性保全の観点などから,水辺林の役割が再認識されるようになってきている。しかしながら,水辺林の構造や動態,そして生態的な機能が十分に解明されているとは言い難く,水辺林を適切に保全・管理し,必要な場合には修復・再生を図るといった取り組みもほとんどなされてきていない。
 このような現状に鑑み,本書は,水辺およびそこに成立する水辺林に関する基本的な国内外の知見と情報をわかりやすく解説するとともに,先進事例に学びながら,水辺林を保全・管理し,必要な場合には修復・再生を図るための指針を示した。日本における水辺林の管理等に関する指針としては,本書が初めて世に問うものとなろう。
 ただし,日本国内における水辺林の管理等に関する技術的知見・蓄積は皆無に等しく,本書が提示した指針も,今後の試験研究の進展や各地での取り組みなどを通じて,適宜見直しが行われ,内容の充実が図られるべきと考えている。また,現在の日本の森林を管理・経営していく上では,さまざまな法令,規則との整合性を図っていく必要があるが,本書で示した指針は,あくまでも基本的なたたき台の1つという位置づけにとどまっている。この点も踏まえた上で,各地の現場事情に対応した多様な水辺林の管理等が展開されることを期待している。
 本書が,危機にある水辺林の理解につながるとともに,日本において水辺林の管理等が進展する契機となれば,これにまさる喜びはない。

著者プロフィール

渓畔林研究会(ケイハンリンケンキュウカイ)

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上記内容は本書刊行時のものです。

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