熱帯林の造成と維持管理
国際協力の現場体験から
岡部 廣二(著)
A5判 300ページ 並製
定価 2,619円 (本体価格 2,381円)
ISBN978-4-88965-142-3 C0061
在庫あり
奥付の初版発行年月 2003年08月 書店発売日 2003年08月10日
解説
20年間にわたって熱帯林の現場を歩いてきた著者が、国内外の知見を踏まえて、森林づくりの実践的なノウハウを記した1冊。
紹介
20年間にわたって熱帯林の現場を歩いてきた著者が、森林づくりの実践的なノウハウをまとめた1冊。熱帯に住む人々の生活ぶりを踏まえた、きめの細かい手引き書です。
目次
刊行に寄せて
はじめに
第1章 熱帯林のあらまし
第1節 熱帯とはどういうところか
1 熱帯の範囲
2 熱帯の気象にはどのような特徴があるか
3 熱帯にはどのような土壌が形成されているか
4 熱帯の植生はどのような特徴を持っているか
第2節 熱帯における降雨と植生との関係
1 熱帯の降雨状況には大きな差がある
2 熱帯における林相と植生
(1)熱帯降雨林
(2)半乾燥地の森林
(3)熱帯山地林
(4)熱帯の特殊な森林
3 熱帯における森林の変化
(1)熱帯に属している国の中での森林の変化
(2)熱帯における山岳林の植生の変化
第3節 熱帯林を森林管理の立場から見ると
1 森林の多様性と人工造林を考える
2 森林の「島化」
3 森林の水文学的効果
第2章 熱帯林の現状と減少・劣化のプロセス
第1節 『西暦2000年の地球』での森林面積予測
第2節 さまざまある森林の定義
第3節 世界の森林は国や地域により異なる
第4節 森林破壊のプロセスと現状
1 アジアの湿潤熱帯林
2 アマゾンの森林
3 サバンナ林
第5節 森林保全への国際的な取り組み
1 国連を中心とする取り組み
2 主要先進国による取り組み
3 持続可能な森林経営のための基準・指標づくり
第3章 熱帯林の利用
第1節 熱帯林の林業的利用
1 産業用材の生産
(1)天然林の産業用材利用
(2)人工造林の利用
2 薪炭材の生産
3 小規模の小丸太生産
第2節 熱帯林のその他の利用
1 焼 畑
2 放牧の場としての利用
3 国立公園などとしての利用
4 狩 猟
5 非木質林産物
第3節 マングローブ林の利用
第4章 熱帯における森林造成
第1節 熱帯における造林の必要性と意義
1 森林造成の意義
2 熱帯における人工林
3 熱帯における森林造成の基本的事項
第2節 熱帯における人工造林実行上の留意点
1 気象、土壌、地形などの自然条件
2 社会・経済
3 土地の利用上の問題
4 山火事の被害
第3節 森林造成
1 湿潤熱帯地域での造林
2 半乾燥熱帯地域での造林
3 乾燥熱帯地域での造林
4 熱帯砂漠での造林
第4節 造林の実例
1 湿潤熱帯地域
2 半乾燥熱帯地域
3 乾燥乾燥地域
4 熱帯砂漠地域
第5節 育 苗
1 苗 畑
2 育苗方法
3 発芽促進と苗畑管理
4 地域別育苗
5 種 子
第5章 熱帯地域における住民参加と社会林業
第1節 社会林業とは
第2節 社会林業のはじまり
第3節 社会林業の実例
1 インドの社会林業
2 ケニアの社会林業
3 タイの社会林業
4 フィリピンの社会林業
第4節 社会林業の発展
第5節 わが国のケニアにおける社会林業プロジェクト
1 プロジェクト要請の背景
2 ケニアにおける社会林業の必要性
3 JICAのプロジェクトタイプ技術協力の実施
(1)事前のニーズ調査
(2)社会林業訓練計画第1フェーズ
(3)社会林業訓練計画第2フェーズ
(4)ケニア半乾燥地社会林業普及モデル開発計画
4 ケニアにおけるプロジェクトの存在意義
第6章 熱帯におけるアグロフォレストリー
第1節 アグロフォレストリーの多面的な効果
第2節 アグロフォレストリーの役割
第3節 アグロフォレストリーの形態
1 林業と農業の組み合わせ
2 林業と畜産業の組み合わせ
3 林業、農業、畜産業の組み合わせ
4 林業と水産業の組み合わせ
第4節 アグロフォレストリーの実行
1 使用される土地
2 使用される樹種
第5節 アグロフォレストリーの実例
1 シャンバ法
2 ケニアの大地溝帯でのアグロフォレストリー
3 フィリピンの事例
4 ミャンマーの事例
第6節 アグロフォレストリー研究と普及
おわりに
解説用語一覧
前書きなど
地球環境問題の深刻度が依然として増加し続けている中で、木材の生産とともに、水源のかん養や土砂流出の防止、地球温暖化の防止、生物多様性の確保、遺伝資源の保全・確保、さらには景観の保全など、多様な機能を持つ森林に対する関心は、一層広がり深まってきている。特に、劣化・減少の度合いが著しい熱帯林に対しては、強い関心と危機感が寄せられている。
だが、熱帯とはどのようなところなのか、熱帯林は日本の温帯林とどう違うのか、熱帯林のもとで人々はどのような生活を営んでいるのか、熱帯林を構成している樹種にはどのようなものがあるのか、熱帯林が劣化・減少するとどのような問題が生じるのか、熱帯林の造成はどのようになされるべきなのか——などについての正確な情報と基礎となる知識は、まだまだ不十分なのが現状である。そこで、本書では、これらの問題について、現場の林業技術者の立場から考察し、熱帯林の造成と維持管理に関する基本的な理解を深めることに努めた。
地球環境の危機が叫ばれている今、森林の管理・経営を、1国内の問題として捉えることはできない。また、森林の機能をより広範囲にとらえ、森林の存在そのものの意義を考え直すことも求められている。熱帯林の造成と維持・管理についても、森林の生物学的、あるいは広義の造林学的知見だけでは対応しきれなくなっている。本来的には森林であるべき草地を含めて、森林を利用している人々が存在し、その人々の生活を無視してはならないのであり、森林の所有形態や利用形態に関する考察も不可欠となってきている。森林の造成や維持管理等についての科学的研究を重ねてきた森林科学の果たすべき役割には大きなものがあるが、森林の利用や木材資源の大量供給を中心とした従来の学問体系は変わらざるを得ない。このような認識から、本書では、「社会林業」や「アグロフォレストリー」のケーススタディともいえる章を起こした。
熱帯では、今なおそのほぼ全域において、森林面積の減少と劣化、種の多様性の危機、頻発する大規模森林火災、農業生産と産業造林とを巡る土地利用の競合など、さまざまな問題が生じている。日本は、地理的位置や木材輸入の関係から、東南アジアの熱帯降雨林に目を向けがちであるが、熱帯降雨林は東南アジアだけにあるのではなく、アマゾンにも、ギニア湾沿岸にも、中央アフリカにも存在する。また、熱帯にはさまざまな森林があり、例えば、アジアには熱帯モンスーン林が分布し、アフリカには熱帯半乾燥地の森林が大面積に存在している。これらの森林に依存して生計を維持している多数の人々がおり、同時に、これらの森林も、地球環境の保全にとって重要な存在意義をもっている。したがって、本書では、熱帯林を広義にとらえ、半乾燥地の森林も熱帯林の一部と理解して、考察の対象とした。半乾燥地の森林や林業に関する和文文献が少ない中で、その現状を少しでも知っていただき、半乾燥地の森林を管理・経営する重要性と困難さを理解していただけたらと願っている。
本書の執筆を始めてみて、たとえ小さなテーマであっても、掘り下げれば掘り下げるほど奥が深くなり、筆者の微力を痛感させられた。造林の現場技術者が、自らの経験に基づいて熱帯林の造成と維持管理について述べた本書が、熱帯林の実務に携われる方々、熱帯林の実状をもう一歩進んで知りたいと思っておられる方々にとって、何らかの参考になれば、これに過ぎる喜びはない。
著者プロフィール