森と木と人のつながりを考える

 

国際化時代と「地域農・林業」の再構築

自然科学

井口 隆史(編著者) / 泉 英二(著者) / 枚田 邦宏(著者) / 川村 誠(著者) / 坂野上 なお(著者) / 長谷川 正(著者) / 藤原 三夫(著者) / 鶴見 武道(著者) / 藤掛 一郎(著者) / 荻 大陸(著者) / 具 滋仁(著者) / 山本 伸幸(著者) / 伊藤 勝久(著者) / 松島 昇(著者) / 胡 霞(著者) / 鹿取 悦子(著者)

A5判  373ページ 上製
定価 3,143円 (本体価格 2,857円)
ISBN978-4-88965-194-2 C0061
在庫あり

奥付の初版発行年月 2009年12月
書店発売日 2010年01月08日

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解説

「グローバル化」と訣別、地域に根ざした新たな農・林業のあり方を、16人の執筆者が示す。

紹介

「グローバル化」と訣別、地域に根ざした新たな農・林業のあり方を、16人の執筆者が示す。

目次

はしがき3

序 章 国際化時代と「地域農・林業」の再構築 井口 隆史15
はじめに15
1 21世紀の諸問題と日本の対応16
 (1)気候変動問題と日本の取り組み16
 (2)日本が方向転換を必要とする諸問題について18
 (3)21世紀の地球環境問題と日本の対応20
2 地球環境問題の考え方と取り組み方21
 (1)基本的な考え方21
 (2)日本とスウェーデンの取り組み方23
3 「グローバリゼーション」と日本の農・林業の方向24
 (1)農業の2つの方向24
 (2)林業の2つの方向28
 (3)地域農・林業の今後の方向31
4 循環型社会における日本の地域農・林業の今後の方向37
 (1)循環型社会と農・林業38
 (2)日本の第一次産業の変貌と今後の方向39
5 地域農・林業の再構築について42
 (1)日本とスウェーデンの相違点42
 (2)基本的考え方44
 (3)受動的対応から自立的主体形成へ44
 (4)地域の合意による自治体内の目標設定45
6 農・林業技術の開発と普及について50
 (1)農業技術50
 (2)林業技術51
 (3)複合経営技術の模索52
7 農・林業を中心とする循環型社会の全国展開は実現可能か53
8 農山村における自給農・林業の力とその持つ意味55
おわりに57
●コラム四月「山笑う」 鹿取 悦子64


第一部 持続可能な森林・林業の条件
第1章 貿易問題を考える 泉 英二67
はじめに67
1『林業』は衰退していいのか70
2 人工林による扶養力とその直面する課題73
3 世界経済システム変革の狼煙をあげよ!75
4 貿易理論の再検討78
 (1)地球環境絶対制約下における日本の国際森林・林業政策78
 (2)地球環境絶対制約下における「貿易」、「林産物貿易」79
 (3)比較生産費説の批判的検討81
 (4)為替レート論82
 (5)WTO 83
 (6)貿易と環境84
 (7)今後われわれが提起すべき方向84
おわりに85
追  記86
●コラム五月「田んぼ」 鹿取 悦子89
第2章 現段階における森林所有者と森林組合 枚田 邦宏91
はじめに91
1 森林・林業基本法における森林管理の担い手91
2 森林整備地域支援交付金制度の概要と鹿児島県における現状94
 (1)森林整備地域支援交付金の概要94
 (2)鹿児島県の取り組みの現状95
3 森林所有者と森林組合との新たな関係の構築98
4 森林組合による林業労働力の組織化の現状100
 (1)鹿児島県の森林組合の新規雇用方法100
 (2)作業班の雇用形態及び組織編成とその管理方法102
 (3)作業班組織編成と管理105
5 新たな状況における森林組合職員に求められるもの107
 (1)「森林施業実施技術者」107
 (2)「森林施業管理(組織)技術者」107
 (3)森林組合経営の幹部技術者108
まとめ110
●コラム六月「鮎釣り」 鹿取 悦子112
第3章 日本林業の可能性 川村 誠・坂野上 なお・長谷川 正113
1 問題の所在113
2 第1次イノベーションと「60年代モデル」114
 (1)イノベーション前史114
(2)集材機革命115
(3)市売市場と「日本型流通システム」116
(4)第1次イノベーションの特徴124
3 「非」架線集材の先駆的試み126
4 真庭・津山地域の車輌系システム127
(1)車輌系システム、それは“クローラ・ダンプ”に始まった127
(2)真庭・津山地域における車輌系システムの展開129
(3)MCD方式のイノベーション特性134
(4)システムイノベーションへの課題136
5 小規模分散型林業の可能性138
(1)オルターナティブへの道138
(2)スモール・スケールとイノベーション139
●コラム七月「祇園さんと新住民」 鹿取 悦子146
第4章 林業の担い手の将来展望 藤原 三夫147
はじめに147
(1)課題の設定147
(2)地球の温暖化148
(3)人口の減少と高齢社会の到来149
(4)経済のマイナス成長と地域社会の変貌150
(5)林業に要求されるもの150
1 自治体の林業労働力需給見通しと担い手育成方策151
(1)愛媛県内地域別人口・森林・林業の現況151
(2)自治体による林業雇用の現状認識と林業労働力需給の見通し156
(3)自治体における林業担い手確保の基本方針158
(4)簡単なまとめ160
3 林業事業体における林業労働力確保方針と施策への期待161
(1)林業事業体における雇用と求人の現状161
(2)林業事業体における林業労働力確保の方針163
4 林業担い手の将来展望165
(1)林業労働力確保の現状と見通し165
(2)誰が林業の担い手になるのか167
第5章 地域が育てる専門技術者集団 鶴見 武道171
1 龍山村森林組合「指導班」の意義と特徴171
(1)龍山村森林組合「指導班」による先駆的試み171
(2)龍山村森林組合による指導班編成の画期性173
2 指導班経験者の構成と経験評価174
(1)指導班経験者に対する聞き取り調査の実施174
(2)龍山村森林組合指導班員の特徴176
(3)指導班活動の評価178
(4)地元コミュニティとの矛盾180
3 天竜フォレスター分離独立以後の成果181
(1)天竜フォレスターの分離独立とグリーン丸木の役割181
(2)(有)天竜フォレスターの設立メンバーの経歴184
(3)天竜フォレスターの活動の推移186
(4)事業活動におけるコミュニティ的性格189
4 (有)天竜フォレスターの評価191
(1)龍山村森林組合と(有)天竜フォレスターの関係191
(2)コミュニティの形成と専門的作業組織の必要性193
●コラム八月「グリーンツーリズム」 鹿取 悦子198
第6章 スギ並材産地の展開と地域格差 藤掛 一郎199
はじめに199
1 製材工場規模と素材生産密度の相互規定202
2 産地モデル206
(1)製材工場規模関数207
(2)スギ素材需要関数208
(3)素材供給関数208
3 モデルの推定210
4 地域格差215
おわりに219
●コラム九月「旬の食べ物」 鹿取 悦子224


第二部 農山村のオルタナティブな将来設計に向けて
第1章 焼畑と農林業 荻 大陸227
1 農産物食品の劣化227
2 焼畑農産物の高品質性229
3 焼畑と農業・林業231
(1)農業が焼畑に学ばねばならぬこと231
(2)林業が焼畑に学ばねばならぬこと233
4 焼畑への誤解236
5 熱帯林減少と農業237
6 森林と農業をめぐる問題241
●コラム十月「地区対抗の運動会」 鹿取 悦子245
第2章 共有山の森林管理と地域 具 滋仁・伊藤 勝久・井口 隆史247
はじめに247
1 「共有の性質」の変遷過程と現在248
(1)入会林野と所有権248
(2)組合の場合249
(3)任意組織の場合256
(4)財団法人の場合256
(5)事例調査組織においての共有の性質257
2 林野の管理・利用形態の変遷と現在259
(1)入会林野の共同管理・利用259
(2)個別的共同利用の変遷259
(3)団体的共同利用の変遷と現在261
(4)林野からの収入と支出262
3 管理組織の運営実態と地域活動264
(1)共有山の管理主体264
(2)役員などの選出・意思決定方式など264
(3)事務室と運営費265
(4)現在の活動と地域社会との関係266
まとめ267
第3章 農山村の経済循環構造 山本 伸幸275
1 問題の所在275
2 農山村の経済循環構造276
3 SAM(社会会計行列)278
4 SAMを用いた農山村の経済循環構造の表章279
5 環境セクターへの拡張284
6 今後の展望288
第4章 グローバリゼーションと日本の農林業 伊藤 勝久295
はじめに295
1 日本における農林業の現段階296
2 日本における農林業の価値認識の変化301
3 グローバリゼーションのもたらしたもの305
4 農林業の復興309
●コラム十一月「山里の秋」 鹿取 悦子312


第三部 中国西部の森林破壊・砂漠化への取り組み
第1章 中国西部における自然資源の過剰利用 松島 昇315
はじめに315
1 乏しい森林資源と造林活動316
(1)辺境西部の脆弱な自然環境と少数民族居住地域317
2 寧夏における砂嵐 (黄塵)318
(1)生態系区分としての万里の長城319
(2)流動砂丘320
(3)乾燥地造林保護の問題、放牧規制321
(4)先駆的造林グループと放牧農民との対立322
3 青海省、環西寧圏における過剰放牧323
(1)環西寧圏の草地の半分近い劣化草地324
(2)草生産量の2倍、3倍の放牧頭数325
(3)過剰放牧による青海湖の水質汚染326
4 四川省涼山州安寧河流域の治山問題327
(1)治砂と治山327
(2)涼山州、余りに多い荒廃裸地328
(3)地域間、民族間の農業収入格差330
(4)薪柴利用の地域格差333
(5)異常に枝を打ち上げられた雲南松334
(6)彝族の大きな教育男女格差、教育格差のない漢族335
5 大きな社会的格差の所産としての自然資源過剰利用336
(1)東西格差、都市・農村格差336
●コラム十二月「狩猟」 鹿取 悦子339
●コラム一月「増えた有害鳥獣」 鹿取 悦子340
第2章 中国西部における生態移民による農業経営 胡  霞341
1 集落移転の背景と目的341
2 天水農業経営の実態とその限界343
(1)五道嶺子村の自然条件と農業経済343
(2)天水農業経営の実態344
(3)低水準の伝統的農業の資材投入構造346
(4)農家の収入構造347
3 集約的農業経営の展開とその問題点348
(1)移住先である河西郷および新五道嶺子村の農業立地条件348
(2)集落移転前後の農業経営方式の変化349
(3)移転前後の収入構造の変化353
(4)移転後の問題点355
4 西部大開発の中での生態移民村の新しい問題356
(1)12年後の旧五道嶺子村356
(2)12年後の新五道嶺子村の変化360
おわりに364
●コラム二月「雪」 鹿取 悦子367
●コラム三月「有害鳥獣対策」 鹿取 悦子368

あとがき369
編著者・執筆者紹介372

前書きなど

はしがき
 いわゆる経済のグローバル化を推進してきた考え方が否定されようとしている。大航海時代から今日まで続いてきた、欧米中心の世界秩序は、今ようやく終わろうとしているように見える。
 21世紀は、環境の時代だといわれているが、資源・エネルギーが枯渇に向かう時代でもある。かつて、生産や生活の結果としてのゴミの処理が、処分場の枯渇などによって大きな問題となったが、近年では、その前提となる生産に必要とされる資源・エネルギーそのものの枯渇が問題となってきているのである。
 農林業経営の規模拡大は、相変わらず官民によって押し進められているが、近年の状況は、それが将来的にも実現しそうにない政策目標であることを示している。むしろ、それとは反対の方向に向かいつつあるのが日本の農業・農村の現実であるように見える。地産地消を前提として、各地の農家が取り組む自給的生産と産直市の盛況などはその典型である。
 本書は、編著者である井口の定年退職に当たって企画されたものであり、井口の以下のような問いかけに対する、各執筆者の考察であり、答えである。
 「国際化、すなわち経済のグローバル化が進展し、さまざまな意味で従来の日本社会、農林業がその影響を受け、波に飲み込まれている。その対応として、国際化に太刀打ちできる大規模で効率性を追及するような方向が模索され、その影響は各方面に拡大しつつある。他方で、小規模ながら持続可能なあり方、環境保全的あり方、スローライフなどを志向する動きがあり、これも徐々に拡がりつつある。今後の地域農林業、農山村のあり方を考えるとき、それぞれの地域条件を前提にしながらも、どのような方向が模索されるべきであろうか。」
2009年11月 井口 隆史

版元から一言

「グローバル化」と訣別、地域に根ざした新たな農・林業のあり方を、16人の執筆者が示す。

著者プロフィール

井口 隆史(イグチ タカシ)
島根大学名誉教授、農学博士/島根大学・寧夏大学国際共同研究所(研究員・所長)
泉 英二(イズミ エイジ)
愛媛大学理事・副学長、農学博士
枚田 邦宏(マキタ クニヒロ)
鹿児島大学農学部助教授、農学博士
川村 誠(カワムラ マコト)
京都大学農学部助教授、農学博士
坂野上 なお(サカノウエ ナオ)
京都大学フィールド科学教育研究センター助手、農学博士
長谷川 正(ハセガワ マサシ)
株式会社オービック、農学博士
藤原 三夫(フジワラ ミツオ)
元愛媛大学農学部教授、農学博士
鶴見 武道(ツルミ タケミチ)
愛媛大学農学部教授、農学博士
藤掛 一郎(フジカケ イチロウ)
宮崎大学農学部教授、農学博士
荻 大陸(オギ タムツ)
京都創成大学教授、農学博士
具 滋仁
韓国全北鎮安郡戦略産業課(村づくり支援チーム)、農学博士
山本 伸幸(ヤマモト ノブユキ)
森林総合研究所関西支所(地域林業経済担当チーム)、農学博士
伊藤 勝久(イトウ カツヒサ)
島根大学生物資源科学部教授、農学博士
松島 昇(マツシマ ノボル)
(財)自然環境研究センター研究員、農学博士
胡 霞
中国人民大学経済学院准教授、農学博士
鹿取 悦子(カトリ エツコ)
美山町観光農園江和ランド、農学修士

上記内容は本書刊行時のものです。

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