治山事業百年史
(社)日本治山治水協会(著/文 他)
B5判 764ページ 箱入り
定価 31,428円 (本体価格 28,571円)
ISBN978-4-88965-230-7 C0061
絶版
奥付の初版発行年月 2012年12月 書店発売日 2013年04月11日
解説
1世紀に及ぶ治山事業の歩みをまとめた記念碑的労作。貴重な資料も漏らさず収録。
紹介
1世紀に及ぶ治山事業の歩みをまとめた記念碑的労作。貴重な資料も漏らさず収録。
目次
発刊に当たって ⅰ
編集に当たって ⅲ
第1章 治山事業の歴史と展望 1
はじめに 1
第1節 古代・中世の森林荒廃 2
1.森林の劣化と山地荒廃の始まり 2
2.中世の山地荒廃 4
第2節 近世における山地荒廃の進行と治山治水6
1.全国的な森林の疲弊 6
2.自然災害の激化 8
3.江戸時代の国土保全政策としての治山治水 9
4.海岸林の造成 12
5.江戸時代後期の国土環境 13
第3節 森林法と第1期森林治水事業―治山事業100年前期15
1.明治時代の森林・山地の状況 15
2.治水三法の成立と治山治水の近代化 16
3.治山・砂防事業の進展 17
4.戦中・戦後の荒廃と災害の激増 19
第4節 治山事業の発展―治山事業100年後期前半 20
1.技術の進歩と国土保全事業の発展 20
2.燃料革命・肥料革命と森林の回復 21
第5節 荒廃山地の復旧と森林の成長―治山事業100年後期後半 23
1.治山事業の成果 23
2.山地災害防止上の新たな課題 26
3.水源涵養機能の発揮 28
4.森林・林業における新たな課題と森林・林業基本法 31
第6節 持続可能な社会における治山事業 32
1.地球環境問題と持続可能な社会 32
2.持続可能な社会と森林・林業の関係 34
3.治山事業の展望 35
第2章 治山行政の進展 37
第1節 明治時代の治山治水政策 37
1.概 説 37
2.治水3法の制定 37
3.林野行政の推移 38
第2節 第1期治水事業(明治44年~10年) 40
1.概 説 40
2.荒廃地復旧補助事業 40
3.公有林野造林奨励事業 42
4.その他の森林治水事業 43
森林組合設立奨励事業 43
開墾地復旧補償事業 43
標柱建設事業 44
森林測候所設置事業 44
内務省所管の治水事業 44
第3節 第2期森林治水事業 46
1.概 説(昭和11年~22年) 46
2.荒廃林地復旧事業 47
本省直轄荒廃林地復旧事業 47
国有林荒廃林地復旧事業 48
民有荒廃林地復旧助成事業 48
3.公有林野造林奨励事業 48
4.水害防備林造成奨励事業 49
5.遊水林造成奨励事業 49
6.その他の森林治水事業 49
第4節 占領下における治山行政(昭和21年~27年) 51
1.概 説 51
2.林政統一 51
3.水源林造成事業 52
4.森林法改正 52
第5節 講和後自立経済での治山行政(昭和28年~34年) 55
1.概 説 55
2.治山治水基本対策要綱 55
3.保安林整備臨時措置法の制定 59
保安林の配備 59
保安林の施業 59
保安林の買入れ 59
法律の有効期限 60
4.水制度問題と行政機構改革 60
5.経済自立5ヵ年計画と水源林造成事業 62
6.「地すべり等防止法」の制定 64
地すべり等防止工事の対象 64
地すべり防止区域の指定 65
地すべり防止施設 65
行為制限 65
関連事業計画 65
国庫負担率 65
7.新長期経済計画と治山行政 65
特殊緊急治山 67
保安林の損失補償 67
第6節 「治山治水緊急措置法」の制定 68
1.治山治水長期計画の検討 68
2.「治山治水緊急措置法」の制定 70
3.治山事業十箇年計画 71
事業の目標 71
事業の量 71
4.治山勘定の増設 71
第7節 高度経済成長期の治山行政(昭和35年~46年) 72
1.高度経済成長期の経済計画と予算額の概観 72
2.災害の概要 74
3.治山事業五箇年計画の概要 75
治山事業十箇年計画(第1次治山事業五箇年計画) 75
第2次治山事業五箇年計画 75
第3次治山事業五箇年計画76
4.治山事業を取り巻く森林・林業施策等の概観 77
水源林造成事業の公団移管 77
林業基本法の制定 78
第2期保安林整備 78
新河川法の制定 79
林地崩壊防止事業の創設 79
保全林整備事業の創設 80
5.国有林治山事業の動き 81
第8節 石油ショック後の治山行政(昭和47年~56年) 82
1.石油ショック後の経済計画と予算額の概観 82
2.災害の概要 85
3.治山事業五箇年計画の概要 86
第4次治山事業五箇年計画 86
第5次治山事業五箇年計画 86
4.治山事業を取り巻く森林・林業政策の概要 87
環境保全運動の高まり 87
第3期保安林整備計画 88
渇水問題の顕在化 88
5.国有林治山事業の動き 90
国有林野内治山事業(治山勘定)の創設 90
経済計画における国有林治山事業の位置づけ 90
国有林野事業改善計画の策定 91
国有林野内補助治山事業の創設 91
第9節 安定経済成長期の治山行政(昭和57年~平成3年) 92
1.安定経済成長期の経済計画と予算額の概観 92
2.災害の概要 95
3.治山事業五箇年計画の概要 96
第6次治山事業五箇年計画 96
第7次治山事業五箇年計画 97
第8次治山事業五箇年計画 98
4.治山事業を取り巻く森林・林業施策等の概観 98
水源地治山対策室の設置 98
第4期保安林整備計画 99
水源税および森林・河川緊急整備税創設運動 100
5.国有林治山事業の動き 104
治山勘定のみによる国有林治山事業 104
調査事業の開始 105
激甚災害対策特別緊急事業の創設 105
水源税等の要求の動きと国有林野内直轄治山災害関連緊急事業の創設 105
「治山の森」の設置 106
「地区指定」による整備事業等の新設 106
第10節 バブル景気後の治山行政(平成4年~13年) 107
1.公共事業を取り巻く政策等と予算額の概観 107
景気の動向と財政の概観 107
各年度の予算編成の概観 107
政策に関する主な出来事 109
2.治山事業を取り巻く森林・林業政策等の概観 111
「地球サミット」から始まった地球温暖化対策 111
保安林制度を巡る動き 111
「林業基本法」から「森林・林業基本法」へ 112
治山事業に関連する主な出来事 112
組織の変遷 113
3.災害の概要 113
4.治山事業の概観 115
第8次治山事業五箇年計画 115
第9次治山事業七箇年計画 116
民有林治山事業の実績 117
国有林治山事業の実績 120
第11節 公共事業の変革と治山行政(平成14年~23年) 122
1.公共事業を取り巻く政策等と予算額の概観 122
景気の動向と財政の概観 122
各年度の予算編成の概観 122
政策に関する主な出来事 124
2.治山事業を取り巻く森林・林業施策等の概観 127
京都議定書の発効と森林吸収源対策の推進 127
「森林・林業再生プラン」の策定と新たな展開 127
治山事業に関する主な出来事 127
3.災害の概要 130
4.治山事業の概観 133
治山事業計画から森林整備保全事業計画へ 133
民有林治山事業の実績 135
国有林治山事業の実績 137
第3章 治山の教育と試験研究の推移 141
第1節 大学教育と試験研究 141
1.明治から昭和中期(昭和48年まで) 141
教 育 141
試験・研究 144
治山(砂防)を受講する大学の現状 144
2.昭和後期から平成初期 148
教育制度 148
教育内容 149
大学での研究 150
第2節 国立森林総合研究所関係における試験研究 151
1.第1期治水事業時代 151
森林測候所の成立と機構 151
森林測候所の変遷 153
森林測候所の業務 153
森林測候所の業績 155
2.第2期森林治水事業時代 156
森林治水試験の組織 156
森林治水試験の業務 158
森林治水試験の業績 158
3.昭和中期(昭和46年まで)の治山事業時代 159
試験研究組織の変遷 159
試験研究内容の変遷 162
業 績 165
4.昭和後期(昭和46年以降)から平成まで(平成2年まで) 169
筑波移転とその後の森林総研への組織再編成 169
試験研究内容の変遷 170
5.国立研究所から独立行政法人研究所への移行以降(平成3年~23年) 176
試験研究組織の動向 176
水土保全分野(旧森林環境部水土保全科および水土保全研究領域)に関する試験研究の動向 178
気象・防災林分野(旧森林環境部防災科と気象環境研究領域)に関する試験研究の動向 181
治山・防災分野に関わる国際研究協力の動向 183
森林総合研究所の果たすべき役割 185
第3節 その他の機関における調査研究 186
1.明治から昭和中期(昭和46年まで) 186
林野本庁における調査研究 186
国有林における試験研究 187
民有林における試験研究 190
その他官庁における調査研究 192
民間団体などにおける調査研究 193
2.昭和中期以降 194
林野本庁における調査研究 194
治山研究会 198
民間団体などにおける調査研究 199
3.平成4年度以降の調査研究 206
林野庁本庁における調査研究 206
治山研究発表会 212
民間団体などにおける調査研究 213
第4章 治山技術の変遷 229
第1節 第1期治水事業開始以前 229
1.明治時代以前 229
2.明治時代 230
第2節 第1期治水事業時代 233
第3節 第2期森林治水事業時代 235
第4節 治山計画発足時代 238
第5節 治山治水緊急措置法制定以降 242
1.山地治山 242
治山技術基準の制定 242
山地災害危険地区の予測技術の進展 243
豪雨による山地災害の予警報システムおよび警戒・避難基準雨量の設定手法の開発 246
渓間工事の変遷 250
山腹工事の変遷 251
2.地すべり防止 253
地すべり等防止法の制定 253
地すべり防止工法の調査・開発 254
地すべり防止工 255
3.防災林造成 260
海岸防災林造成 260
なだれ防止林造成 260
4.生活環境保全林整備 261
事業の内容 262
計画の基準 262
5.総合治山 263
6.保安林の転用に当たっての代替施設の設置基準および林地開発許可基準 264
第6節 第八次治山事業計画以降(平成4年~23年) 266
1.山地治山 272
治山技術基準[総則・山地治山編]の改訂 272
山地災害対応技術の向上 274
コスト縮減対策の推進 276
環境問題への対応 279
渓間工の発展 280
山腹工の発展 282
2.地すべり防止 285
地すべり防止事業の進捗 285
林野庁の調査・研究開発 286
地すべり調査・解析技術の進展 288
地すべり防止対策工の変遷 292
維持・管理技術の開発 293
総括と今後の展望 296
3.防災林造成 296
海岸防災林 297
なだれ防止林造成 298
4.生活環境保全林整備事業 299
5.総合治山事業 301
6.保安林転用に当たっての代替施設の設置基準および林地開発許可基準 303
保安林の転用解除 303
林地開発許可基準 304
7.技術開発等に関する調査事業 304
第5章 災害事例と治山事業 307
第1節 災害事例と治山事業 307
1.都市型災害の復旧 307
由 比 307
六甲山の治山事業 328
眉山(島原市) 335
2.豪雨・火山・地震災害等の復旧 343
小 坂 343
足 尾 362
御嶽山 370
阿蘇山 377
3.海岸林の造成 384
庄内海岸 384
東海村海岸林 397
第2節 平成2年以降の主な災害事例と治山事業 405
1.1990年(平成2年)長崎県雲仙・普賢岳噴火災害 405
雲仙・普賢岳噴火被害 405
治山対策 406
おわりに 412
2.1991年(平成3年)9月台風19号災害―大分県を中心として― 412
台風19号災害の概要 412
台風19号等災害復旧対策調査検討委員会の設置と検討 413
大分県の治山対策 414
人工造林地の復旧対策 415
大規模な風倒木被害発生後の山腹崩壊 417
おわりに 417
3.1996年(平成8年)長野県蒲原沢土石流災害 417
災害の概要 417
警戒・避難体制の検討 418
全体計画の見直し 423
おわりに 423
4.1999年(平成11年)梅雨前線豪雨災害―広島県を中心として― 423
災害の概要 423
広島県土砂災害対策検討委員会の設置 424
今回の山地災害の特徴 424
今回の災害を踏まえた今後の恒久的な土砂災害対策のあり方 425
おわりに 427
5.2000年(平成12年)三宅島噴火災害 428
三宅島噴火被害 428
森林被害 431
三宅島森林復旧に向けた取り組み 431
三宅島緑化ガイドライン 432
三宅島緑化マニュアル 433
治山復旧事業 433
おわりに 434
6.2003年(平成15年)熊本県水俣災害 435
災害の概要 435
土石流災害発生と熊本県および水俣市における初動対応 436
防災関係機関による救出・捜索活動 437
災害復旧等の取り組み 438
初動対応についての検証 439
災害を教訓とした取り組み 440
おわりに 441
7.2004年(平成16年)台風第23号災害と風倒木対策―兵庫県を中心として― 441
2004年(平成16年)に上陸した台風の概要 441
台風第23号の被害の概要 442
兵庫県の風倒木発生と治山対応 443
兵庫県の風倒木被害対策 445
おわりに 448
8.2006年(平成18年)7月豪雨災害―長野県岡谷を中心として― 449
災害の概要 449
豪雨災害に関する検討委員会 450
土砂災害対策の基本方針 451
警戒避難体制のあり方について 452
災害に強い森林づくり指針 452
おわりに 454
9.2008年(平成20年)岩手・宮城内陸地震と治山事業 454
はじめに 454
地震の概要および被害の状況 454
山地災害の状況 455
治山事業の実施 459
おわりに 463
10.2011年(平成23年)3月東日本大震災―海岸林の被害と復旧― 464
東日本大震災の発生と復旧 464
森林・林業・木材産業関係の被害状況 467
被災した海岸防災林の再生 469
おわりに 474
第6章 現代社会における治山事業の意義と展望 475
第1節 現代社会構造と自然災害および治山事業への期待 475
1.日本における社会構造の変革 475
2.日本国土の素質的,内因的要素と外因的要素 477
3.天然資源と社会構造 478
4.有限天然資源開発と治山事業 479
5.都市のエゴイズムと治山事業の拡大 480
6.河川開発に対応した治山事業の拡大 482
7.今後の治山事業への期待 482
第2節 治山技術の回顧と将来展望 483
1.はじめに 483
2.治山事業百年と治山の目的の転換期 483
3.治山技術とは 485
4.技術に転用する人間の知識 486
5.治山技術で考えておきたいこと 487
6.治山技術は選択肢の幅を広く 487
7.新しい時代の治山について一言 488
山の荒廃を起こさないようにする―新しい時代の予防治山 488
崩壊が起こったとき,どうするか―新しい時代の復旧治山 489
8.これからの治山技術者に望むこと 490
第3節 50年後の国土の未来像と治山事業 491
1.はじめに 491
2.人口減少と生態系の変化 491
3.森の変貌 493
4.川の変貌 494
5.50年後の治山事業に望まれる視点 494
第7章 社団法人日本治山治水協会とその活動 499
第1節 協会の歩み 499
1.治山治水協会設立の背景と経緯 499
第2期森林治水事業と全国期成同盟会 499
帝国治山治水協会の誕生 499
2.戦時下,戦後苦難期の協会 500
戦時下の協会活動―協会の法人化なる 500
戦後苦難期の協会活動 501
3.協会活動の定着―協会の基盤整備(昭和23年―昭和45年) 501
周東英雄会長,野原正勝副会長に若返る―会長,副会長国会議員のパターン固まる 501
山林復興大会から国土保全大会へ 502
広報活動などその他の協会活動 503
協会活動と“治山と砂防” 503
4.協会活動の振興充実(昭和45年―平成3年)―周東会長から竹下登会長,渡辺栄一会長ヘ 505
昭和52年11月,竹下登会長誕生―協会の運営陣容充実さる― 505
協会活動活性化の素地づくり 505
試練を経て「治山林道促進大会」ヘ 506
森林の水資源対策に全精力を―林野公共投資拡大の突破口に― 507
治山林道議員懇話会世話人会の発足 507
広報および啓蒙活動について 508
都道府県森林土木コンサルタント連絡協議会発足 508
治山事業80周年記念事業 509
5.協会活動の転換期 平成4年から現在まで―渡辺会長から高鳥修会長,綿貫民輔会長,山口俊一会長へ 510
運営体制の変遷 510
時代背景と協会の動き 510
予算確保に向けた様々な活動 511
林野公共事業推進議員協議会等の発足 512
広報および啓蒙活動 512
都道府県森林土木コンサルタント連絡協議会 513
公益法人制度改革への対応 513
6.協会事務所の建設―治山会館から永田町ビルへ 513
治山会館の建設 513
永田町ビルの建設 514
永田町ビル3階(土地建物)の一部購入について 516
第2節 協会活動の推移 516
1.協会運営の概要 516
会員の推移 516
協会役員 517
2.財政の推移 522
戦前の協会財政 522
戦後30年代までの協会財政 522
昭和40年代以降の協会財政 522
平成4年以降の協会財政 523
3.全国大会の経緯 524
全国山林復興大会(昭和22~31年) 524
全国治山林道大会から国土保全大会(昭和32年~51年) 524
治山林道促進大会(治山林道予算拡大要望の集い)(昭和52年~平成3年) 524
治山林道促進大会から治山林道のつどい(平成4年~平成20年) 526
4.本協会の主な事業 527
功労者に対する表彰 527
書籍の発行 528
広報誌の発行 529
各種コンクールの実施 530
展示事業―水の週間行事への参加― 533
セミナー等の開催 533
都道府県森林土木コンサルタント連絡協議会による研修事業等 534
森林科学研究所による普及啓発事業 534
5.関連団体の誕生と進展 535
全国治山林道政治連盟 535
全国森林土木建設業協会 535
6.主な協会活動と概要 537
治山治水緊急措置法の制定と治山事業五箇年計画の拡充改訂 537
水源税,森林・河川緊急整備税創設運動の展開 539
林野公共事業推進協議会等の設置とその活動 543
三位一体改革への取組 545
公益法人制度改革と協会の動き 545
関係資料 547
1.関係法令 549
2.治山事業年表 585
3.災害年表 599
4.林野行政組織一覧表 618
5.関係首脳部名簿 627
6.統計諸表 633
前書きなど
・編集に当たって
我が国は,急峻な地形でかつ脆弱な地質構造から,古くから豪雨,台風,地震などにより,山崩れや土石流が発生し,国民の生命・財産に大きな被害をもたらしてきた。特に明治時代には,それまでの森林への強度の負荷により,表土もないはげ山が各地に多く見られ,山地災害の大きな原因となっていた。
明治40,43年に発生した甚大な洪水被害は,その一因が山地の荒廃に由来するとされ,この復旧に「治水三法」に基づいて第一期治水事業が明治44年(1911年)に開始された。これが治山事業の始まりとなった。
爾来,第二期森林治水事業(昭和12年開始),戦後昭和23年の第一期治山計画策定へと連なり,昭和29年の「保安林整備臨時措置法」,昭和35年の「治山治水緊急措置法」の法律が整備されて,数次にわたる「治山事業計画」に基づく事業が実施されてきた。
こうした治山事業により,防災対策が進み,国土の安定化が進展してきて,治山現場もかってのハードな部材を用いた抑止施設の配置から,生息生物の環境にも配慮し,生物多様性にもマッチした技術の採用等,ソフト技術が重視される時代へと様変わりしてきた。そして先人の英知と努力によって築かれたこれまでの治山技術の蓄積の上に立って,「安全で安心して暮らせる国土づくり」,「豊かな水を育む森林づくり」,「身近な自然の再生等による多様で豊かな環境づくり」を目指す基本方針に沿って,今後とも治山事業が民政安定のために着実に推進されることが望まれる。
こうした中,昨年平成23年(2011年)は,治山事業が開始されて丁度100周年を迎えることとなった。
社団法人日本治山治水協会では,過去の節目に「治山事業五十年史」,「治山事業六十年史」,「治山事業八十年史」をそれぞれ発刊してきたが,今回治山事業開始から100年の節目に当たり,「八十年史」を基に,その後の20年間の歩みを顧みて,治山事業100年の成果と意義,今後の課題と展望・期待等を記録に留めることとして,ここに「治山事業百年史」を刊行することした。
本百年史は我が国が発展・成長する過程で遭遇した,森林の過伐による国土の荒廃とそれによってもたらされた災害との闘い,国民生活の安全・安心のための森林の整備保全・復旧技術の導入・確立や法的整備などが必要となった過程が記述されている。治山事業100年の歴史が本書で分かると言っても過言ではない。本書は先人の集積した英知に学び,新たな技術開発に挑む治山技術関係者,大学・研究機関関係者や関連学窓で幅広い新知識吸収に励む学生達にとっても価値ある書であると考える。
座右の書として頂ければ幸いである。
多くの有識者の方々に目を通して頂き,我が国の森林整備保全や世界の荒廃した森林の保全・回復,災害防止対策に貢献することを願って止まない。
「治山事業百年史」編集委員会委員長・東京農工大学名誉教授
塚本 良則
版元から一言
1世紀に及ぶ治山事業の歩みをまとめた記念碑的労作。貴重な資料も漏らさず収録。
著者プロフィール