森と木と人のつながりを考える

 

ミクロデータで見る林業の実像
2005・2010年農林業センサスの分析

自然科学

藤掛 一郎(編著) / 田村 和也(編著)

A5判  204ページ 並製
価格 2,200円 (本体価格 2,000円)
ISBN978-4-88965-249-9 C0061
在庫あり

奥付の初版発行年月 2017年03月
書店発売日 2017年03月07日

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解説

農林業センサスの個票データを活用して2000年代後半の林業構造とその変化を描き出した初めての本。

紹介

農林業センサスの個票データを活用して2000年代後半の林業構造とその変化を描き出した初めての本。

目次

はじめに 3

第1章 センサスミクロデータによる林業経営体の分析(藤掛一郎・田村和也) 15
 1.はじめに 17
 2.分析用データ 17
 3.接続データ分析の意義と留意点 24
 4.退出・参入した経営体の動向 27
 5.継続経営体の特徴 32
 6.まとめ 35

第2章 素材生産の活発化とその担い手(藤掛一郎) 41
 1.はじめに 43
 2.林業経営体の区分 43
  2.1.林業経営体全体の動向 43
  2.2.受託経営体の区分 45
  2.3.保有経営体の区分 46
 3.素材生産量全体の変化 47
 4.受託立木買いによる素材生産の変化 49
  4.1.生産量変化 49
  4.2.主間伐作業受託立木買い面積 50
  4.3.素材生産規模 51
 5.保有山林での素材生産 53
  5.1.生産量変化 53
  5.2.人工林面積当たり生産量 57
 6.まとめ 58

第3章 保有山林経営の動向(田村和也) 63
 1.保有経営体の経営活動の分析視点 65
 2.保有経営体の経営体数・保有山林面積 66
 3.保有経営体の林業作業の実施状況 66
 4.保有経営体の林産物販売状況 74
 5.まとめ 78

第4章 共的保有林の経営動向(大地俊介) 83
 1.はじめに 85
 2.経営体の区分 85
  2.1.慣行共有のゆくえ 85
  2.2.「慣行共有」の抽出 90
 3.共的保有林の保有状況 96
  3.1.保有面積の分布 96
  3.2.保有面積の構成変化 98
 4.林業作業の実施状況 102
  4.1.林業作業実施率と面積 102
  4.2.自ら実施した素材生産量 107
 5.おわりに 108

第5章 社有林の経営動向(大塚生実) 111
 1.はじめに 113
 2.2005年、2010年の林業経営動向の特徴 113
  2.1.2005年、2010年の林業経営動向の指標 114
  2.2.経営形態別保有規模階層別1経営体当たりの特徴 115
 3.社有林の経営行動 121
  3.1.社有林の保有構造 121
  3.2.社有林の「退出」「継続」「参入」別林業経営行動 121
  3.3.「継続」経営体における保有の変化(増加・減少・変化なし)別特徴 124
  3.4.社有林「継続」経営体における保有規模階層の移動 126
  3.5.社有林における「退出」「継続」「参入」の地域性 127
 4.まとめ 128

第6章 家族農業経営体による林業作業受託・立木買い(山本伸幸) 133
 1.本章の課題 135
 2.分析対象経営体の定義 135
 3.農林業の現金収入 138
 4.林業作業受託、立木買いと農業生産 140
 5.林業作業の受託 144
 6.林業作業受託、立木買いと素材生産 144
 7.小  括 147

第7章 家族による保有山林経営と世帯構成(田村和也) 151
 1.林業経営体の世帯・世帯員の分析を行う意義とその方法 153
 2.経営主と世帯員の状況 155
 3.世帯員の自営林業従事状況 157
 4.経営主年齢・性別に見た家族保有経営体の経営活動状況 159
 5.世帯の世代数と経営活動状況 163
 6.世帯の経営主交代と経営活動状況の変化 165
 7.まとめ 168

第8章 家族による保有山林経営の多変量解析(林 雅秀) 175
 1.はじめに 177
 2.林業経営体の農業経営上の特徴と林業活動 177
 3.家族林業経営体の林業活動に影響する要因についての回帰分析 181
  3.1.世帯の特徴と林業作業の実施状況との連関 181
  3.2.地域ごとに見た林業作業の実施状況 183
  3.3.地域ごとのマルチレベルモデルによる回帰分析 185
 4.2005~2010年の間の林業活動の変化 191
  4.1.林業活動の変化 191
  4.2.所有面積の変化と世帯の特徴の変化との連関 192
 5.まとめ 195

おわりに 197
 1.分析結果のまとめと今後の研究課題 197
 2.個票を用いた研究の意義と研究発展の展望 199
 3.個票利用の統計調査への貢献可能性 200

前書きなど

●「はじめに」から
 1960年に初めての林業センサス調査が行われて以降、10年または5年おきに行われてきたセンサス調査は、林業構造を明らかにする統計としての役割を担ってきた。林業構造とは、林業という産業の仕組み、成り立ちという意味である。1964年に林業基本法が制定され、林業構造の改善が林政の主要な政策課題となった。具体的には、林業を成り立たせる担い手をどこに求め、いかに育成していくかが問われ、その模索は2001年の森林・林業基本法改正以降も望ましい林業構造の確立を目指すというかたちで今日まで続いている。
 そのため、センサス調査結果を分析して、その時々の我が国の林業構造を解明することは、林業経済研究の重要な一環であり続けてきた。従来のセンサス分析は、公表される集計表や組み替え集計を利用して行われてきたが、2007年の統計法改正により、調査対象である経営体ごとの回答が分かるミクロデータ(個票データ)を入手し分析する道が開けた。
 ミクロデータが利用できれば、集計済みの資料に頼るよりも豊富な情報を入手し、林業構造をより鮮明に明らかにすることができる。そこで、われわれは、2005年と2010年に行われた農林業センサスの林業経営体に関するミクロデータを入手し、2000年代後半の林業構造とその変化を描き出すことを目的に3年間分析を重ねてきた。本書は、その成果をまとめたものである。
 本書で取り上げる2000年代後半は、我が国の林業生産がひさびさに拡大に転じるという画期をなす時期であった。木材統計によると、我が国の素材生産量は2002年に底を打った後、2000年代後半には2004年の15,615千m3から2009年の16,619千m3へと、1,004千m3、6.4%上昇した。5年間隔で生産量が上昇したのは、それこそ構造政策の始まった1960年代以降初めてのことであった。その当時盛んに植えられた人工林がようやく40?50年生となり、伐採の時期を迎えたことから、林業生産が拡大を始めたのである。また、生産の拡大と重なるが、2008年度から京都議定書第1約束期間に入ったことから、地球温暖化対策のために多くの予算が投じられて間伐が促進された。その結果、間伐面積は2004年の33万haから2009年には59万haと大幅に増加した(平成23年版森林・林業白書)。さらに、労働力に関しても、2003年度から始まった「緑の雇用」に後押しされ、新規就業者が増えた時期でもあった。このようにひさびさに拡大に転じた林業の構造を、センサスがいかに捉えたかを明らかにすることが、本書の第1の課題である。
 しかし、それがこの時期の林業の光の側面を描くことであるとするなら、本書のもう1つの課題はその影の側面をも描くことである。というのも、生産が拡大を始めたとはいえ、この時期、木材価格はまだ底にあり、最上流の林業経営にとっては依然として大変厳しい状況が続いていたからである。そもそも素材生産量が1,004千m3増えたといっても、需要別に見ると、製材用素材の生産量はむしろ1,226千m3減っており、増えたのは、合板用1,433千m3と木材チップ用797千m3であった。製材品については、特にリーマンショックの短期的影響を考慮する必要があるが、結局のところ、この時期に活発化したのは低質材の需給なのである。そして、製材用素材の価格は、スギが2004年の13,500円/m3から2009年の10,900円/m3へと下落、ヒノキに至っては29,400円/m3から21,300円/m3へと大きく下落し、唯一カラマツだけが9,300円/m3から10,100円/m3へと上昇したに過ぎない。このような状況下で、一部に活気付く動きがあったとしても、林業経営全体を見渡せば、いまだ苦境を脱し難く、施業放棄や経営放棄が一層広がったことも想像に難くない。また、それゆえ、政策的には森林組合などの作業受託を行ういわゆる林業事業体がいかに森林所有者の林業経営を強くサポートできたかも問われる。以上の観点から、この時期の林業経営の実態がいかなるものであったのかを明らかにすることが、本書の第二の課題である。

版元から一言

農林業センサスの個票データを活用して2000年代後半の林業構造とその変化を描き出した初めての本。

著者プロフィール

藤掛 一郎(フジカケ イチロウ)
宮崎大学農学部教授
田村 和也(タムラ カズヤ)
国立研究開発法人森林総合研究所・研究員

上記内容は本書刊行時のものです。

2,200円
(本体価格 2,000円)

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