森林を活かす自治体戦略
市町村森林行政の挑戦
柿澤宏昭(編著) / 石崎涼子(著) / 相川高信(著) / 早尻正宏(著)
A5判 334ページ 並製
価格 3,300円 (本体価格 3,000円)
ISBN978-4-88965-265-9 C0061
在庫あり
書店発売日 2021年03月05日
解説
森林環境譲与税などの有効活用に向けて必読の1冊!
紹介
約30市町村の現地調査をもとに、今後の森林づくりと地域振興の方向性を示します。森林環境譲与税などの有効活用に向けて必読の1冊です。
目次
はじめに 3
第1章 総論 9
1.市町村森林政策を巡る展開過程 11
2.市町村森林行政の現状と課題 24
第2章 事例編 33
1 規模の大きな合併市町村における総合的取り組み 37
愛知県豊田市:自立した市町村森林行政の可能性の追求 39
山形県鶴岡市:「森林文化都市」を目指した山村振興 45
鳥取県鳥取市:市と森林組合の関係強化を軸とした森林管理 53
滋賀県長浜市:市独自計画に基づく多様な森林づくり 63
長野県伊那市:ソーシャル・フォレストリー都市とゾーニングを目指した計画 71
神奈川県相模原市:首都圏合併政令指定都市の新たな取り組み 74
2 小規模市町村における独自林政の展開 79
岡山県西粟倉村:百年の森構想、ベンチャー事業者との協働による森林活用 81
鳥取県智頭町:住民参加による多様な森林利用と地域再生 85
長野県信濃町:森林セラピーによるまちづくり 105
北海道厚真町:専門職員による森林行政の展開と起業支援 111
北海道中川町:技術者ネットワークの構築と森林文化の再生 116
北海道夕張市:「炭鉱(ヤマ)」を「森林(ヤマ)」に読み替え新たな価値を見いだす 121
北海道寿都町:山と海のつながりづくり、他町村職員支援 130
神奈川県秦野市:神奈川県水源環境税の活用と里山保全 135
3 市町村林政と森林組合の補完関係 143
大分県豊後高田市:市と森林組合が一体的に進める里山を利用した原木シイタケ生産 153
北海道当麻町:「木育」による町産材需要の創出と林業振興 161
北海道南富良野町:町と森林組合の協働による持続可能な森林管理 177
4 市町村有林の活用 189
北海道池田町:町有林を試験地とした施策・技術の開発 194
島根県津和野町:人材定着・育成のフィールドとして 199
岐阜県御嵩町:信託による長期安定的な外部組織の活用 205
5 木質バイオマス活用と市町村 209
岩手県花巻市:林政アドバイザーを活用した林業政策の強化 213
長野県塩尻市:森林課・森林公社の創設を通じた林業再生政策の立ち上げ 216
岩手県遠野市:木質バイオマス熱利用の継続的発展のための自治体の工夫 219
6 施業コントロールを展開している市町村 223
北海道標津町など:標津町における河畔林規制、その他の市町村における河畔林保全 228
岐阜県郡上市:サポーターとタッグを組み皆伐のルール化に挑む 234
愛知県豊田市:森林保全ガイドラインによる伐採届け出制を通じた施業コントロール 239
7 市町村林政と原子力災害 243
福島県田村市と都路行政局:生業の再生と森林汚染に揺れる旧避難指示区域 249
福島県川内村:復興事業に追われる全村避難の村 256
福島県古殿町:町と森林組合による復興事業を軸とした林業振興 262
コラム 森林を持たない大都市自治体の取り組み 268
東京都港区による「みなとモデル」
8 都道府県による市町村支援 273
北海道:チームを編成し組織的に市町村を支援 276
岐阜県:人員派遣と市町村森林管理委員会によるサポート 288
高知県:森林環境税導入を契機とした市町村支援体制の抜本的強化 292
長野県:広域組織を軸とした市長村サポート体制の構築に向けて 296
事例編のまとめ 301
執筆分担 332
前書きなど
日本の森林行政策の展開過程の中で、市町村は様々な役割を期待され、またその役割を果たしてきた。この詳細については第1章を参照いただきたいが、現在大きな論点となっているのは次の2点である。第1は地方分権化の流れの中で、森林政策に関わる権限が市町村に下されてきていることである。既存の政策の体系の中で権限が下ろされてきているとともに、森林経営管理法(新たな森林管理システム)や森林環境譲与税といった新たな制度の導入についても市町村がその主体として位置づけられてきている。第2は地方消滅などセンセーショナルな形で地方の危機が喧伝され、一方で地方創生など地域を再生するための新政策が講じられる中で、市町村がどのような対応をとるのかに注目が集まっていることである。
分権化については、上からの分権化であり、多くの市町村にとっては「迷惑」と受け取られているといった批判や、市町村行政の実態を反映していないといった批判がある。また貿易交渉などで1次産業をないがしろにし、一極集中に手をつけないまま、地域再生を求めることへの批判も行われている。こうした点で、日本の政策体系や政策形成のあり方自体を根本的に問い直すことが必要とされているといえる。
一方で、分権化への対応や地方再生は待ったなしの状況であり、森林環境譲与税や新たな森林管理システムの活用の検討も迫られている。また市町村はこれまでも、よりよい森林管理、よりよい森林と社会との関係の構築、よりよい森林活用のために様々な手を打ってきており、今後の市町村森林行政のあり方を考えるうえで、改めてこのような取り組みの現状を押さえることが必要である。
そこで、現在の市町村森林行政の到達点を把握し、今後の市町村森林行政のあり方を考える素材を提供することを目的としてまとめたのが本書である。本書のもとになったのは科研費(科学研究費基盤研究C 森林を基盤とした地域再生のための自治体戦略の策定・実行手法の研究(2016~2018年度))による研究で、市町村や関係機関へ調査を重ねてきた。調査にあたっては、独自の構想や条例、具体的な政策開発など政策の内容だけではなく、脆弱といわれてきた市町村森林行政体制整備をどのように進めてきたのかについても焦点を当ててきた。本書では、このような調査の結果をできるだけ具体的に紹介することを目指した。今後市町村がどのように森林行政体制を整備し、森林政策の形成や実行に取り組むかを考え、さらには森林政策の中の自治体のあり方を再考するきっかけとなれば幸いである。
2021年3月
柿澤宏昭
著者プロフィール