農山村のオルタナティブ
伊藤勝久(編著) / 井上憲一(著) / 一戸俊義(著) / 大津裕貴(著) / 保永展利(著) / 高橋絵里奈(著) / 小菅良豪(著) / 米康充(著) / 吉村哲彦(著) / 上園昌武(著) / 久保田学(著) / 堤研二(著) / 関耕平(著) / 牧田佳子(著) / 中山智徳(著) / 篠原冬樹(著)
A5判 316ページ 並製
価格 4,400円 (本体価格 4,000円)
ISBN978-4-88965-268-0 C0061
在庫あり
書店発売日 2021年09月06日
解説
農林業の「もう一つのあり方」を通して、真の豊かさを提示する! 混迷の時代の必読書です。
紹介
農林業の「もう一つのあり方」を通して、真の豊かさを提示する! 混迷の時代の必読書です。
目次
はじめに(伊藤勝久) ⅰ
第1章 Iターン者の幸福論 ―離島におけるソーシャル・キャピタルと幸福要素の計測―(伊藤勝久) 1
1 はじめに 1
2 課題と方法 2
3 幸福の要素 5
4 調査地域の概況 7
5 海士町におけるソーシャル・キャピタル、生活満足度 15
6 幸福の要素の計測 23
7 考察 26
8 結論 27
第2章 農協を核とした新規就農支援の取り組み(井上憲一) 31
1 はじめに 31
2 島根県の農業担い手育成支援の特徴 33
3 島根県農業協同組合やすぎ地区本部 37
4 新規就農支援の取り組み 39
5 担い手支援センターによる農業サポーターの育成 47
6 おわりに 48
第3章 島根県中山間地域集落営農法人の周年屋外飼養による黒毛和種肥育素牛生産体系の評価(一戸俊義) 53
1 研究の背景と目的・課題設定方法 53
2 材料および方法 56
3 結果および考察 61
4 まとめ 72
第4章 山地酪農と酪農教育ファームの実践から見た牧野(大津裕貴) 75
1 はじめに 75
2 有畜農業、林間放牧、山地酪農 76
3 有畜農業における乳牛飼養の実践と牧野 79
4 山地酪農の実践と酪農教育ファームと牧野 85
5 まとめ 91
6 おわりに 95
第5章 農山村の市街部における宿泊施設の経営と地域づくり ―ホテル・旅館のマッチング特性に着目して―(保永展利・牧田佳子) 97
1 はじめに 97
2 研究方法 99
3 分析結果 105
4 おわりに 116
第6章 歴史的な特徴と施業技術の特徴からみた吉野林業地の今後の展望(髙橋絵里奈) 119
1 はじめに 119
2 吉野林業の歴史的な特徴 119
3 吉野林業の森林施業の特徴 125
4 吉野林業の今後の展望 128
5 おわりに 131
第7章 林業の多部門複合化 ―複合生産による足腰の強い経営追求―(伊藤勝久) 133
1 はじめに 133
2 山村経済の歴史的特徴 134
3 山間集落の活力と資源利用 135
4 森林利用と林業の変化 139
5 発想の転換 140
6 新しい需要 142
7 林業の可能性を広げる 145
8 おわりに 149
第8章 林業大学校による林業の担い手育成に向けた林業教育・森林教育の実践(小菅良豪) 151
1 はじめに 151
2 日南町における林業教育と森林教育 152
3 林業大学校について 154
4 森林教育の実践 161
5 考察:森林教育から林業教育への接続教育の可能性 172
6 今後の課題 174
第9章 森林資源情報のオルタナティブ(米 康充) 177
1 はじめに~スマート林業推進政策~ 177
2 スマート林業を支える森林リモートセンシング 178
3 森林航測から森林リモートセンシングへ~「高さ情報」の歴史的経緯~ 192
4 森林資源情報のオルタナティブ 196
5 おわりに 204
第10章 小規模・零細林家を支援する林業技術(吉村哲彦) 207
1 はじめに 207
2 林業の産業形態 208
3 損益分岐点による機械化林業の事業評価 209
4 自伐型林業のための林業機械 216
5 おわりに 223
第11章 農山村のエネルギー自立と持続可能性(上園昌武・久保田学) 225
1 はじめに 225
2 深刻さを増す気候危機への対応 225
3 エネルギー自立地域の意義 228
4 オーストリアの中間支援組織を活かしたエネルギー自立地域づくり 234
5 おわりに ―日本の農山村のエネルギー自立地域を展望する― 244
第12章 島根県隠岐郡隠岐の島町における地域生活機能と産業の持続可能性 ―ソーシャル・キャピタルとミックス・バランスに着目して―(堤 研二) 247
1 はじめに:本章の趣旨 247
2 日本をめぐる大状況と地域生活機能 248
3 島根県隠岐郡隠岐の島町の事例 251
4 地域生活と産業の持続可能性の検討:ソーシャル・キャピタルと産業間連携と施設の利用 257
5 おわりに 265
第13章 海士町における地域再生政策を可能にする制度的条件 ―財源調達メカニズムを中心に―(関 耕平) 269
1 はじめに 269
2 海士町における地域再生と町財政運営 271
3 一過性を超えた持続可能な地域を目指して―島前教育魅力化プロジェクト 276
4 海士町における地域再生政策の構図とその制度的条件 282
5 Jacobsのアポリアを超えて―「自律-依存」型の地域再生へ 287
第14章 地域内経済循環の拡大 ―林業・林産業の新規需要がもたらす地域経済への効果―(伊藤勝久・中山智徳・篠原冬樹) 293
1 はじめに 293
2 地域経済効果の測定 294
3 木質バイオマスエネルギー需要(特に中小熱供給) 295
4 木材加工分野の新設による地域内波及効果 301
5 考察 305
おわりに 309
執筆者紹介(執筆順) 313
前書きなど
本書『農山村のオルタナティブ』では、現在、農業、林業および地域振興について従来の考え方や方法とは異なる新しい取り組みに着目した。それは2010年以降徐々に形を現してきた。その形の現れ方は新たな生活価値観、新たな担い手、地域資源の利用方法、農林業生産のモノカルチャーからの脱却、農山村地域におけるサービスの自給(新たな公)、資源の循環的利用、あるいは再生可能エネルギーの自給、さらには地域内経済循環の拡大などである。
かつて「地域興し」といえば、若齢人口を増やし、その人たちが地域内部に定住し、農林業に従事し付加価値を高め、地域外に販売し外貨を獲得するという方法が一般的であった。しかしわが国の総人口は2008年をピークに減少局面に転じている。そのような全体状況の中で特定の農山村において人口、しかも若手人口が増加することはほぼあり得ないとみてよいであろう。そうすると人口減少を前提に、つまり人口が減少しても年齢構成が極端に高齢化せず再生産可能な年齢構成で農山村社会が維持できる対策を考えるのが妥当である。他方で、農山村集落すべてを維持するのは困難で、いかに支援しても衰退から脱却できない地域が出てくるのもやむを得ない。そうすると農山村を無人化しない方策を国土政策として考えていく必要がある。その意味で、近年農山村に入ってきたIターン者さらに交流人口・関係人口を含めた新たな担い手、また制度的担い手として地域おこし協力隊などが、地域の特徴的産物や文化的伝統を発見・発信し、地元集落に張り付いて産業や生活福祉の底上げを行っている。農山村において世帯の後継者、農業の後継者および地域社会の後継者は、かつては農家の後継ぎ層が担っており、これら三者は一致していた。過疎化・高齢化のプロセスでこれらの担い手は一旦は分解し、世帯の後継者はいるものの農業や地域の担い手はいなくなってしまった。しかし、現在外部からの新規参入者をはじめ交流人口や関係人口が農業や地域の担い手を補填するようになっている。新たな交流人口を確保する上で、地域資源のツーリズム的利用も重要で、そのための受入態勢整備や農林牧畜業の教育的利用も重要になり、その中から将来の農林業・地域運営の担い手が育つ可能性もある。
林業面では森林経営段階、素材生産段階、木材流通・加工段階に分かれ、後二者は商品生産とマーケット・イン(市場ニーズに基づいて製品を生産する)が基本であるが、前者は基本的にプロダクト・アウト(現場で生産されたものを販売する)である。森林経営面では1960年代以降実践されてきた標準仕立て(植栽密度3,000本/ha、間伐2-3回、40-45年伐期、柱生産を目標)による一斉造林・一斉皆伐のモノカルチャーを実践してきた。住宅部材需要があり相対的に需給が逼迫していた段階では一定の採算性が確保されたが、現在では需要の縮小と質的変化により立木価格が低下し採算性が低下している。つまり数十年という長期間をかけて安価な用材を生産しているに過ぎず、モノカルチャーの弊害が現れており、今後はマルチカルチャーへの転換が必要である。この新しい経営理念を持ち柔軟な経営を実践している森林経営者も存在する。他方で、わが国の森林資源を生かして林業を戦略的成長産業に変貌させることも政策的悲願であり、そのためには木材の世界市場に打って出るために世界価格を前提としたコスト縮減、伐採・流通・加工において規模拡大と一層の効率化が求められている。森林・林業に関しては、このように相反する動きがある。
地域全体でも、地域振興を目的とし外部に漏出する金銭を削減し、地域内部での経済循環を拡大しようとする動きが見られる。地域内で付加価値額を増大するという従来の考え方に加え、地域で生み出された価値が地域内部で循環するような産業間の関係の見直しと新たなライフスタイルへの価値発見が必要である。この仕組みに都市住民を含めて、資源自立、エネルギー自立、低炭素社会の構築に関して地域内部の、また地元と都市部の関係者が協働で事業を実施している例もみられる。さらに地域が必要とするサービスは地方自治体に依存するのではなく、「新たな公」という形で、地域内部の人々、市民組織、NPO、企業、団体、自治体などができる事を分担し合ってサービスの質を高め、多様な主体による自律的地域運営を行っている地域もある。
このように、農山村では、農業、林業、その他の地域産業、農山村社会の構造、農山村における制度・サービス、持続可能な社会を目指す地域単位の取組みが新たに始まっている。本書では、最新の取り組み事例の分析、あるいはその理論的考察の形で、執筆者の専門的立場からまとめたものである。これらは今後の農山村づくり、農林業の「もう一つのあり方」に有益な示唆を与えるもの思う。
版元から一言
混迷の時代の必読書です。
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