現代中国森林政策研究
平野悠一郎(著/文 他)
A4判 648ページ 上製
価格 6,600円 (本体価格 6,000円)
ISBN978-4-88965-280-2 C0061
在庫あり
書店発売日 2025年03月20日
解説
巨象・中国の全貌を明らかにした初めての書。単著で600ページを超える歴史的大作です。
紹介
20年以上に及ぶ研究活動と丹念なフィールドワークによって巨象・中国の全貌を明らかにした初めての書。単著で600ページを超える歴史的大作です。
目次
はじめに
序章 現代中国森林政策研究の視座
1.地域における「森林政策研究」の視座 1
2.中国という「地域」の捉え方 3
3.本書の構成と研究手法・資料状況 11
3.1.?森林をめぐる利害とは何か:機能・価値・便益と人間主体・立場への注目 11
3.2.総合的な森林政策研究 19
3.3.研究手法と資料状況 22
第1部 現代中国の森林をめぐる概況
第1章 現代中国の森林関連の統計データ・用語・概念の整理
1.現状の森林関連の公式統計 35
1.1.公式統計データの由来 35
1.2.全域的な統計が示す森林の過少状況 36
1.2.1.林地(林業用地)と森林の違い 39
1.2.2.何が「森林」とみなされているか? 41
1.2.3.天然林と人工林の面積・蓄積 42
1.2.4.土地・林木所有別にみた森林面積 45
1.2.5.森林の用途別にみた面積・蓄積 47
1.3.地方別の統計に見る森林分布の不均等 49
2.森林関連の公式統計データの時系列的推移 56
2.1.森林被覆率の倍増 56
2.2.造林面積の推移 57
2.3.跡地更新面積の推移 59
2.4.木材生産量の推移 61
2.5.時系列データから見える大々的な森林の造成と利用 63
3.森林関連の公式統計と森林政策研究 64
3.1.公式統計の集計をめぐる政治構造的な問題点 64
3.2.集計の基準・方法の変更 66
3.3.集計に際しての信憑性の問題 66
3.4.森林関連の公式統計の限界克服にあたって 68
第2章 現代中国の森林政策をめぐる歴史的・政治的背景
1.現代中国の森林政策をめぐる歴史的背景 75
1.1.中国における森林の長期的な開発・破壊 75
1.2.機能・価値・便益からみた歴史的な森林との関わり 80
1.2.1.用地提供機能に伴う価値・便益がもたらす開発・破壊 80
1.2.2.物質提供機能に伴う価値・便益がもたらす環境改変 80
1.2.3.環境保全機能に伴う価値・便益がもたらす保護・造成 82
1.2.4.?精神充足機能に伴う価値・便益がもたらす保護・囲い込み・造成 83
1.3.現代中国前夜の森林との関わり 86
2.現代中国の森林政策をめぐる政治的背景 88
2.1.政治体制・変動と森林政策 88
2.2.現代中国の政治過程と森林政策 92
2.2.1建国初期(1949~52年):域内安定化の模索 92
2.2.2.第一次五ヵ年計画期(1953~57年):社会主義建設の進展 93
2.2.3.?大躍進政策期(1958~60年):社会主義急進化と人民公社の成立 94
2.2.4.調整政策期(1961~66年上半期):大躍進失敗の是正 95
2.2.5.?文化大革命期(1966年下半期~69年):現代中国を揺るがした政治闘争 97
2.2.6.?1970年代の再建期(1970~78年):文化大革命収束と「環境問題」の登場 98
2.2.7.?改革・開放期(1979~97年):対外開放・民営化・市場化による経済成長 100
2.2.8.?最近の動向(1998~2010年代):グローバル化と格差の中で 103
第2部 現代中国における森林政策の展開
第3章 大規模な森林造成・保護政策という不変の基軸
1.建国初期の森林造成・保護政策(1949~52年) 110
2.森林造成・保護政策の本格的展開(1953~57年) 114
2.1.大衆動員による森林造成・保護活動の全域拡張 114
2.2.「全土の緑化」キャンペーンに伴う政治性の反映 116
2.3.森林造成・保護政策における課題の表面化 118
3.森林造成・保護政策における「大躍進」(1958~60年) 121
3.1.「緑化祖国」と「大地の園林化」 121
3.2.なぜ大躍進政策期の森林破壊は生じたのか 123
4.森林造成・保護の「調整政策」(1961~66年上半期) 125
5.文化大革命期の森林造成・保護政策(1966年下半期~69年) 130
6.森林造成・保護政策の環境政策化(1970~78年) 133
7.改革・開放期の森林造成・保護政策(1979~97年) 135
7.1.森林造成・保護の観点からみた「民営化」 135
7.2.森林造成・保護に関する法規範の充実 138
7.3.森林伐採限度量制度の確立 140
7.4.全民義務植樹運動の展開 142
7.5.森林造成・保護のプロジェクト・ベース化 144
7.6.森林造成・保護の実態的問題:陝西省楡林市の事例から 149
8.近年の森林造成・保護政策の内容と課題(1998~2010年代) 153
8.1.経済発展の中での自然災害と森林造成・保護への再注目 153
8.2.進むプロジェクト・ベース化:国家六大林業重点工程 157
8.3.天然林資源保護工程 161
8.3.1.政策の展開過程 161
8.3.2.黒龍江省伊春市の事例 167
8.3.3.その後の天然林資源保護工程 169
8.4.退耕還林工程 171
8.4.1.政策の展開過程 171
8.4.2.北方黄河中上流域の事例 175
8.4.3.その後の退耕還林工程 179
8.5.森林造成・保護政策に付随するゾーニング 181
8.5.1.主要な森林ゾーニング 181
8.5.2.湖南省常徳市石門県の事例 187
9.森林造成・保護政策の総括 191
9.1.首尾一貫した森林造成・保護の目的と課題 191
9.2.森林造成・保護政策の背景 192
9.3.今後の研究課題 194
第4章 林産物需要の増大に伴う森林開発・林産業発展政策
1.社会主義経済体制下での森林開発・林産業発展政策の展開 212
1.1.建国当初の森林・林産業の状況と開発計画 212
1.2.第一次五ヵ年計画期からの森林開発の本格化 216
1.3.林産物生産・加工・流通過程の国家統制 218
2.改革・開放以降の森林開発・林産業発展政策の展開 223
2.1.林産物の生産・流通過程の段階的な市場化と統制の残存 223
2.2.林産物の生産・流通過程の市場化の定着 225
2.3.林産業の民営化の推進と事業主体の多様化 226
2.4.2000年代にかけての林産業の急速な発展と影響 231
2.5.域内森林開発の限界と林産物貿易の自由化・拡大 235
2.6.?政策の位相の変化:直接的な資源管理政策から間接的な産業振興政策へ 242
3.林産物需要増に伴う森林開発をもたらした背景と政策的対応 244
3.1.人口増加に伴う住民の生活資材需要 244
3.2.食糧増産等の必要性に伴う森林の用地転換 248
3.3.木材利用率の低さと浪費の深刻化 250
3.4.?林産物の有効利用事例:華北平原のポプラ造林と木質ボード産業 255
4.森林開発・林産業発展政策の総括 260
4.1.森林開発・林産業発展政策の背景と影響 260
4.2.今後の研究課題 261
第5章 周縁からの森林政策:域外との交流と社会変動の反映
1.域外との知識・技術交流の影響 269
1.1.建国当初の森林政策に生かされた知識・技術 270
1.2.ソビエト連邦からの専門家派遣とその政治的後退 274
1.3.改革・開放以降の国際化と知識・技術交流の進展 278
2.「環境問題」への対応を通じた森林政策の変化 284
2.1.「環境問題」概念の森林政策への受容(1970年代) 284
2.2.ストックホルム国連人間環境会議 286
2.3.「環境政策」としての森林政策の領域拡大(1980~2010年代) 288
3.経済発展に伴う「森林への訪問」の広がりと森林政策 294
4.周縁からの森林政策の総括 297
4.1.その背景と内実から見た森林の諸機能の政策的反映 297
4.2.今後の研究課題 300
第3部 森林政策をめぐる制度の変遷:権利・実施システム・法令
第6章 現代中国の森林をめぐる権利関係の改変
1.現代中国の森林をめぐる権利関係の概要 308
1.1.「林権」という概念 308
1.2.林地所有権 309
1.3.林地使用権 310
1.4.林地請負経営権 312
1.5.林木の権利 315
2.重層的な権利関係の運用における諸問題 317
2.1.林地所有権と他の権利の関係 317
2.2.「林木の権利」の具体的運用と「林地の権利」との関係 318
2.3.権利の制約とその解釈 320
3.林権確定政策の推移と基層社会への影響 322
3.1.土地改革(建国当初):森林の国家所有化と農民世帯への分配 322
3.2.社会主義集団化(1950年代):農村における林地所有の集団化 326
3.3.?調整政策と文化大革命(1960~70年代):政治変動に伴う紆余曲折 329
3.4.改革・開放直後の林業「三定」工作(1980年代) 332
3.5.私的経営化・権利開放の再加速(1990~2000年代前半) 335
3.6.試行錯誤の続く近年の林権確定政策(2000年代後半以降) 338
3.6.1.集団林権制度改革と三権分離 338
3.6.2.国有林権改革の現状と展望 346
4.森林をめぐる権利関係の政策的改変の総括 349
4.1.重層的な権利関係を反映した多様な森林管理・経営形態の存在 349
4.2.森林をめぐる権利関係の改変をもたらしてきた要因とその影響 354
4.3.今後の研究課題 357
第7章 森林政策実施システムの整備と特徴
1.「党=国家体制」と森林行政機構による体系化 369
1.1.森林行政機構と党組織・基層組織の段階的整備 371
1.2.森林行政機構の独立性 386
2.繰り返されるシステム内部の変動 389
2.1.森林工業部とその行政体系の興亡(1956~58年) 389
2.2.?改革・開放以降の変化と国家林業局への改組(1980年代~1998年3月) 394
2.3.2018年の国務院改革による森林行政機構の再編 397
3.森林政策実施システムの運用の仕組み 402
3.1.共産党の指導性 403
3.2.行政機構の果たす役割と位相 408
4.森林政策の決定過程 414
4.1.トップダウンの森林政策決定 414
4.2.トップダウンの内実:指導者層か行政機構か 416
5.森林政策実施システムの整備と特徴の総括 422
5.1.トップダウンの政策実施システムの功罪 422
5.2.今後の研究課題 424
第8章 森林をめぐる法令の整備とその特徴
1.現代中国の森林をめぐる規範としての「法令」 433
1.1.現代中国における法令の位置づけ 433
1.2.森林をめぐる法令の種類と優先順位 436
1.3.森林をめぐる法令の対象領域と性格 443
2.社会主義建設下の森林関連の法令の歩み 445
2.1.1950年代における森林関連の法令 445
2.2.?1960~70年代における森林関連の法令:国務院「森林保護条例」の制定 447
3.改革・開放以降における森林関連の法令の歩み 450
3.1.?「中華人民共和国森林法」(1979年試行,1984年9月20日修正公布) 450
3.2.改革・開放路線と森林関連の法体系整備 455
3.3.改正「中華人民共和国森林法」(1998年4月29日改正) 457
3.5.森林をめぐる紛争の制御 460
3.6.改正「中華人民共和国森林法」(2019年12月28日改正) 464
4.森林をめぐる法令の特徴の総括 466
4.1.近年における森林関連の法体系整理 466
4.2.森林をめぐる法令の性格と背景 469
4.3.今後の研究課題 471
第4部 森林政策をめぐる人間主体
第9章 森林をめぐる政治指導者層
1.森林をめぐる政治指導者層の立場・認識へのアプローチ 480
2.現代中国の政治指導者層に共通した森林認識 482
2.1.「森林・樹木を増やせ」という共通認識 482
2.2.共通の森林認識の形成背景 485
3.森林の諸機能別にみた政治指導者層の立場と認識 487
3.1.物質提供機能をめぐる政治指導者層の立場と認識 488
3.1.1.商品提供機能の継続的な発揮 488
3.1.2.生活資材提供機能の抑制 490
3.2.環境保全機能をめぐる政治指導者層の立場と認識 491
3.2.1.水土保全機能の重視 491
3.2.2.?その他の環境保全機能(生物多様性維持,二酸化炭素吸収等)の受容 494
3.3.精神充足機能をめぐる政治指導者層の立場と認識 495
4.森林をめぐる政治指導者層の立場・認識の総括 499
4.1.現代中国の「統治者」としての森林認識 499
4.2.今後の研究課題 502
第10章 森林をめぐる専門家層
1.森林をめぐる専門家層の立場・認識・役割へのアプローチ 509
1.1.森林をめぐる専門家層の定義と分類 509
1.2.森林をめぐる専門家層への研究視角 512
2.現代中国の森林をめぐる専門家の群像 515
2.1.梁希:現代中国の森林行政・教育の父(知識人→森林官僚) 515
2.1.1.梁希の出自と経歴 515
2.1.2.域外交流を通じた専門家層の基盤の形成 517
2.1.3.初代林業部(林墾部)部長としての梁希 520
2.1.4.現場主義者・利害調整者としての梁希とその評価 523
2.2.?李範五:政治指導者の卵から森林の専門家へ(政治指導者→森林官僚) 526
2.2.1.李範五の出自と経歴 526
2.2.2.森林官僚化する李範五 528
2.2.3.森林をめぐる専門家としての拘りと矜持 530
2.3.馬永順:「林業英雄」と称えられた男(基層技術者) 532
2.3.1.伐採の模範としての馬永順 533
2.3.2.植樹の模範としての馬永順 534
2.3.3.馬永順をめぐる政治指導者層の思惑と基層社会 535
2.3.4.馬永順の森林認識 537
2.4.侯喜:森林造成に生涯を賭けた男(知識人・基層技術者) 541
2.4.1.侯喜の出自と経歴 542
2.4.2.森林造成をめぐる侯喜の認識 543
2.4.3.中央と基層社会を結びつける現場の専門家 546
3.森林をめぐる専門家層の立場・認識・役割の総括 548
3.1.専門家層の立場・認識における特徴 548
3.2.森林政策の実施において専門家層の果たした役割 550
3.2.1.政治指導者層との必然的な協調関係(政治的役割) 550
3.2.2.基層社会における受け皿の形成(実践的役割) 552
3.3.今後の研究課題 553
第11章 森林をめぐる基層社会の人間主体
1.森林をめぐる基層社会の人間主体の立場・認識・役割へのアプローチ 559
2.基層社会で森林・林地の管理・経営を担う主体 560
2.1.集団と農民 561
2.2.その他の森林・林地の管理・経営主体 567
3.森林をめぐる基層社会の篤志家とその役割 569
4.その他の関連主体 572
5.森林をめぐる基層社会の人間主体の立場・認識・役割の総括 574
5.1.基層社会の人間主体の位相とその変化 574
5.2.今後の研究課題 575
終章 現代中国の森林政策を動かしてきたもの
1.現代中国の森林政策の方向性をめぐる論点 579
2.現代中国の森林政策を規定する「二つの動力」 582
2.1.?継続をもたらす「第一の動力」:森林の諸機能の維持・増強 582
2.2.?転換をもたらす「第二の動力」:総合的な政治路線の方向性 585
2.3.「二つの動力」の根源的な背景:政権の正当性の維持 586
3.「二つの動力」の相互関係から読み解く森林政策の展開 588
3.1.「二つの動力」の相互関係 588
3.2.近年の森林政策における動力の反映 591
4.「二つの動力」からみる現代中国の森林政策の独自性 595
5.森林政策をめぐる機能・価値・便益から見た人間社会の変化 598
おわりに 600
あとがき 605
索引 615
前書きなど
「はじめに」から抜粋
人間社会の持続可能性,世界や地域の安全保障をはじめ,今日の地球上のありとあらゆる課題の解決に向けて,避けて通れない存在となっているのが「中国」である。中国共産党を通じた権威主義体制の下,巨大人口を抱えての急速な経済成長は,今後の地球環境や国際政治にどのようなインパクトを与えるのだろうか。そもそも,中国の政治指導者達は,こうした課題をどのように捉え,どのような域内外での政策的な取り組みを進めているのだろうか。そして,中国各地に暮らす人々は,世界第二位となるまでGDPを押し上げた裏側で,貧富の格差拡大,環境負荷の増大に向き合いつつ,どのような持続可能な社会構築のヴィジョンを生み出そうとしているのか。その結果として,黄砂の発生源ともされる北方の乾燥地帯の緑化をはじめ,地球温暖化防止や生物多様性維持といった取り組みは進んでいくのか。本書は,これらの課題や疑問の解決に資するべく,1949年から2010年代にかけての中国(以下,現代中国)における森林政策の内実を解明する試みである。
現代中国とは,一言でいえば,「社会主義国家建設という政治的な同一性・一元性をもって,数千年単位の森林との関わりの歴史,多様な自然生態的特徴,複雑な社会の仕組みを包摂しようとしてきた地域」である。この構図が,現代中国の「森林政策」と「地域社会」の関係性そのものに当てはまる。
本書は,中国における人間と森林との関係を教材に,今後,将来の課題解決や持続可能な社会構築を目指そうとする有志達,特に若手の実践者・研究者や留学生への「餞」とも位置づけている。現代中国では,どのような森林・環境をめぐる活動であっても,中央政府の政策に起因する流れや構造と無縁ではいられない。本書が,様々な視座や興味関心に応じて,関連する政策を把握する一助となれば幸いである。
2025年3月
平野悠一郎
著者プロフィール
平野悠一郎(ヒラノユウイチロウ)
1977年12月18日 東京都生まれ国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所多摩森林科学園主任研究員
北海道大学文学部人文科学科(東洋史)卒。その後、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻(国際関係論)に進学し、本書の母体となる現代中国の森林政策研究を通じて、修士及び博士(学術)学位を取得。2008年より森林総合研究所に勤務し、日本、中国、アメリカ、イギリス等の森林政策とその社会への影響、森林をめぐる多様な価値・便益の調整と多面的利用の推進についての研究に従事。主な著書に、森林総合研究所編『中国の森林・林業・木材産業:現状と展望』(共編著、日本林業調査会、2010年)、平野悠一郎監修・日本マウンテンバイカーズ協会編集委員会編『マウンテンバイカーズ白書:持続的な生涯スポーツとしてのMTB』(監修・共編著、辰巳出版、2021年)、志賀和人・山本伸幸・早舩真智・平野悠一郎編『地域森林管理の長期持続性:欧州・日本の100年から読み解く未来』(共編著、日本林業調査会、2023年)など。 上記内容は本書刊行時のものです。