森と木と人のつながりを考える

 

ロシア 森林大国の内実

柿澤 宏昭(編著) / 山根 正伸(編著)

A5判  230ページ 並製
定価 2,200円 (本体価格 2,000円)
ISBN978-4-88965-140-9 C0061
在庫あり

奥付の初版発行年月 2002年12月
書店発売日 2002年12月20日

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解説

知られざる大国・ロシアの素顔を、克明な現地調査と最新資料をもとに描き出した初めての本。違法伐採、環境対策、先住民問題まで幅広く分析しています。

紹介

知られざる大国・ロシアの素顔を、克明な現地調査と最新資料をもとに描き出した初めての本。違法伐採、環境対策、先住民問題まで幅広く分析しています。

目次

第1章 現代ロシアの素顔
 1 世界最大の国家
  広大な国土と豊富な天然資源
  地域区分
  1990年代に全人口が減少、極東地域で顕著
  シベリア、極東に多様な少数民族
  ソ連邦の崩壊とロシア連邦共和国の誕生
 2 迷走する政治・行政
  強大な権限をもつ大統領
  安定した政権基盤をもつプーチン政権
  エリツィン政権の地方重視と連邦条約の形骸化
  権限分割条約により地方分権化に拍車
  プーチン政権下での中央集権化へのゆり戻し
 3 停滞する経済
  顕著な経済的地位の低下
  難航する経済改革
  IMF主導の経済引き締め政策の破綻
  1998年のロシア金融危機とルーブル安による景気浮揚
  なお遠い本格的経済回復
  拡大する市民の経済格差
 4 極東経済の現状
  旧ソ連時代—原料供給と軍需産業の集積
  旧ソ連邦解体後は対外貿易にシフト
  「原始化」する極東経済

第2章 世界最大の森林資源
 1 ロシアの森林統計と調査
  森林統計の信頼性
  森林調査の問題点—財政難と生態系配慮の欠如
 2 広大かつ多様なロシアの森林
  8億5,100万haの森林面積
  特有の「森林フォンド」という概念
  天然資源省が森林のほとんどを所管
  全体の5割以上が成熟・過熟林
  カラマツ林が4割近くを占める
  地域により多様な森林資源
  進む森林資源の劣化
  ロシアの森林は温暖化ガスの吸収源なのか?
  危惧される永久凍土の融解
 3 シベリア・極東地域の森林資源
  シベリア・極東地域の森林資源
  森林資源内容が相対的に劣る極東地域
  極東地域の多様な森林の姿

第3章 改革に揺れる森林行政
 1 ロシア連邦の森林行政
  旧ソ連時代—森林管理と伐採・加工を分離
  失敗に終わった森林管理の一元化
  旧ソ連崩壊で進んだ資本主義化と分権化
  短命に終わったロシア連邦森林基本法
  新たに制定されたロシア連邦森林法典
 2 ハバロフスク地方の森林行政
  独自の政策体系を構築
  ハバロフスク地方森林法の制定
  ハバロフスク地方における森林行政・管理組織の実態
  森林管理の担い手と役割
 3 森林利用権—分配と財政の仕組み
  森林利用権の種類
  短期利用権と既得権の扱い
  競争による森林賃貸借の設定の仕方
  森林利用権付与の条件
  企業の選別・淘汰の手段としての機能
  森林利用料金の徴収と分配
  財政難にあえぐ森林管理組織
  整備された制度と組織、伴わない実効性
 4 プーチン政権下での森林行政改革—中央集権への回帰
  重大なマイナスの影響
  森林・環境行政の大リストラ
  再び激動期に入った森林行政

第4章 森林管理活動の実態
 1 森林区分と施業規制
  全森林を3つのグループに区分
  開発林が75%を占める
  東シベリア・極東地域の開発可能林は5割以下
  森林施業の規制
  主採が禁止されている森林と樹種
  伐採方法は皆伐・択伐・漸伐
  森林更新、残材整理の義務付け
 2 森林管理と伐採活動の現状
  レスホーズの役割
  年間許容伐採量の決定方法
  地域別の伐採動向
  許容伐採量を大幅に下回る実際の伐採量
 3 ハバロフスク地方の実態と課題
  粗放な森林管理
  粗放な伐採
  伐採地の北部化・奥地化  
  森林開発戦略の見直しが急務   
  <コラム>モントリオールプロセスのもとでの基準と指標づくり

第5章 頻発する森林火災
 1 森林火災の現状・原因・対策
  森林資源劣化の主要因
  アジア地域で大規模火災が発生
  森林火災のほとんどは人為活動が原因
  火災発生の地域的差異
  極東地域南部の状況
  伐採活動の盛んな場所で火災が多発
  森林火災対策の仕組みと課題
 2 1998年ロシア極東南部森林火災
  300万haを超えた被害面積
  生態面も含めた被害額は2億700万米ドル
  自然条件に加え予算減など人災の側面も
  出火原因の7割以上は人為活動
  国際支援と再発防止への課題

第6章 変革期の林産業
 1 林産物生産の動向
  旧ソ連時代は世界に冠たる林産国
  1990年代における生産急減とその要因
  1998年以降に生産回復
  林産物生産の地域間格差
  「勝ち組」と「負け組」の乖離
  林産業展開のカギを握る紙パルプ産業
 2 企業経営の現状
  実体なき民営化の進行
  <コラム>旧ボス層による経営私物化と食いつぶし
  危機的状況が続く企業経営
  深刻な投資不足と施設の老朽化
  非効率な森林利用も苦境に拍車
  企業活動の新しい動き
 3 連邦・地方政府の対応
  成果の出なかった連邦政府の林産業政策
  ハバロフスク地方の林産業政策
  森林利用権以外は十分機能せず
  <コラム>「企業城下町」の崩壊と山村の貧困化

第7章 拡大する木材貿易
 1 木材貿易の全体的動向
  1998年以降、輸出量が急増
  北欧への輸出が急増、中国も台頭
  極東では日本が最大の相手国
  輸出依存度が高い沿海・ハバロフスク地方
  極東からの木材輸送ルート
  第1ルートが4割のシェア
  乱立する零細輸出企業
 2 対日貿易の現状
  旧ソ連時代の動向
  ロシア連邦成立後に輸出量が急増
  上位10社で輸入量の7割を扱う
 3 対中国貿易の現状
  中ソ木材貿易の経緯
  90年代に急増した中国のロシア材輸入
  貿易の主体は針葉樹丸太
  ロシア材を求める中国の需給構造
  中ロ国境貿易の主要ポイント
  満州里など3カ所に集中
  「森林破壊の輸出」という問題
  <コラム>ロシア極東への海外からの支援 

第8章 違法伐採と森林認証
 1 ロシア極東における違法伐採
  解決が迫られる違法伐採問題
  不明確な違法伐採の実態
  横行する盗伐と法令・許可違反
  違法な商取引・輸送ともつながる
  <コラム>違法伐採率の問題
  監視システムの現状
  違法伐採がなくならない理由
  低い給与と賄賂の常態化
  頓挫したロシア政府の森林認証システム
 2 自主森林認証制度への期待
  普及しはじめたFSC森林認証
  ハバロフスク地方での取り組み
  独自の認証センターと基準・指標づくり
  ハバロフスク森林認証センターの現状
 3 違法伐採対策にどう取り組むか
  構造的な問題に対処する
  多様な関係者による複合的な対策を
  <コラム>イケア社の環境対策

第9章 環境保護への挑戦
 1 環境保護の取り組みと課題 
  環境保護組織の設立とその変遷
  プーチン行革で機能不全に陥る
  活発化するNGOの活動
  <コラム>アムール・トラを守る「特別査察隊タイガー」
 2 自然保護区の現状と課題
  自然保護区制度の発展
  保護区の種類①——ザポベードニク
  保護区の種類②——ザガーズニク
  保護区の種類③——国立公園
  保護区の種類④——天然記念物
  保護区の種類⑤——その他
  保護地域をめぐる問題
 3 極東地域の環境保護
  極東地域における自然保護区の設定
  ハバロフスク地方で進む保護区ネットワーク化
  高まる地方政府と海外支援の役割
  <コラム>ロシア極東地域の森林「ホットスポット」

第10章 極東ロシア先住民と森林
 1 極東ロシアの先住民
  危機にある先住民と森林
  極東ロシア先住民とは
  ロシアの領土拡張で統治下に
  中華文化圏との強固な結びつき
  毛皮狩猟文化の発達
  高度な生態知識と技術
  帝政ロシアから旧ソビエト時代初期の暮らし
  集団居住化とともに進んだ近代化
  アマチュア猟師と専業猟師
  持続的な資源利用のモデル
 2 旧ソ連崩壊後の混乱と貧窮
  市場経済化がもたらした生活難
  食糧不足も深刻化
  民族狩猟企業体の挑戦
  森林開発の無秩序化と先住民の反対運動
  活発化する木材企業の進出
  市場経済システムの陥穽を乗り越えるために

付表1 ロシアの優先樹種別森林面積・蓄積・haあたり蓄積(1998年)
付表2 ロシアにおける地域別林産物生産の動向

前書きなど

 近年ロシアの森林が、地球環境保全、生物多様性保全、木材資源など様々な観点から注目を集めるようになってきた。旧ソ連時代は、森林資源の実態、森林政策、林業や林産業活動について、秘密主義の厚いベールにおおわれ、ほとんど情報は入ってこなかったが、計画経済のもとで、強固な官僚システムによって、しっかりとした森林管理が行われていたと考えられていた。ところが、ゴルバチョフ政権になって、情報が公開され始めると、持続的とはいえないような森林開発が行われていることが次第に明らかになり、さらにソ連崩壊に続く政治的・経済的混乱の中で状況が一層悪化した。
 日本はロシアから大量の木材を輸入してきており、ロシアの森林保全は他人事ではない。海外の環境保護団体からは、ロシアの森林保全の問題がクローズアップされるにつれ、「日本がこの問題に積極的に対応すべきだ」とする議論がしばしば行われるようになっている。また東北アジア地域というまとまりの中で、経済交流や環境保全を進めようという動きがある中で、持続的な森林管理・利用という観点でも日本がリーダーシップを発揮することが求められている。さらにいえば、温暖化ガス削減をめぐる京都メカニズム−共同実施(JI)プログラムに関わって、ロシアでの森林保全活動が注目を集めつつある。こうしたなかで、ロシアの森林をめぐる最新の状況を正確に把握することが大きな課題となっている。
 翻ってロシア国内に目を向けると、プーチン政権に移行してから、ロシア連邦政府は、森林を含めた自然資源政策の見直しを進めている。2002年に入ってからも、森林法の見直し、林産業政策の建て直しなどが提起されており、ようやく一定の秩序が形成されたかにも見えるロシア林政は、再び大きく揺れ動く可能性も出てきた。このような新しい変化や今後の行く末を考える上で、旧ソ連崩壊後10年間のロシア林政を多面的に検証しておくことは、極めて今日的な課題だと思われる。
 しかし、旧ソ連時代に比べれば様々な情報が入るようになったとはいえ、森林資源や林産物生産など基本的な統計数値を得ることも困難な場合が多い。また様々な情報が入ってきても、社会主義体制を引きずった特殊な社会・政治・経済システムをもっているがゆえ、これを系統的に理解することは困難である。
 そこで、本書は、ロシアの森林をめぐるできるだけ最新の情報を提示しつつ、森林政策、環境保護政策、森林管理、林産業の展開と現状について包括的に明らかにすることとした。また、ロシアの森林保全を巡って特に焦点となっている森林火災、違法伐採の問題や、森林開発で生活基盤が危機にさらされている先住民の問題について、それぞれ章を設けて論じた。
 ロシアと一言でいってもそこに拡がる森林は広大であり、地域によってその状況は大きく異なっている。このため、本書では、ロシア全体の状況を俯瞰すると同時に、日本とも関係が深いだけでなく、ロシアの森林保全という文脈でも重要な位置づけにある極東部地域に絞りこんだ記述を併せて行うこととした。
 本書を執筆するにあたっては、多くの方々の支援を受けた。科学アカデミー極東支部経済研究所副所長のシェインガウス教授にはあらゆる面で支援をいただき、教授なしには本書はできなかったといっても過言ではない。また、モスクワの全ロシア森林情報研究センターのストラーホフ所長にもデータの提供やロシア中央での政策動向など貴重な助言をいただいた。この他にも、研究者から現場の森林官まで数多くの方々に聞き取り調査や資料収集にご協力をいただいた。 国内では、IGES(財団法人地球環境戦略研究機関)森林プロジェクト第1期リーダーの磯崎博司氏、第2期リーダーの井上真氏にはロシア森林保全研究を支援していただいた。また、全国北洋製材協会の吉野文敏氏、(財)地球・人間環境フォーラムの坂本由希氏、地球の友ジャパンの野口栄一郎氏にも大変お世話になった。これらの方々に心より厚く御礼申し上げたい。

著者プロフィール

柿澤 宏昭(カキザワ ヒロアキ)
山根 正伸(ヤマネ マサノブ)

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上記内容は本書刊行時のものです。

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