森林の機能と評価
木平 勇吉(編著)
A5判 274ページ 並製
定価 2,619円 (本体価格 2,381円)
ISBN978-4-88965-156-0 C0061
絶版
奥付の初版発行年月 2005年04月 書店発売日 2005年04月22日
解説
森林の機能とは何か、どう評価すればいいのか。説明責任(アカウンテビリティ)を果たすために必要な理論と実践例を体系的にまとめた初めての本です。
紹介
森林の機能とは何か、どう評価すればいいのか。説明責任(アカウンテビリティ)を果たすために必要な理論と実践例を体系的にまとめた初めての本です。
目次
第1章 森林の機能と評価 15
第1節 森林の原理 (太田猛彦) 17
1 はじめに 17
2 森林の原理 18
3 森林の多面的機能の分類 21
4 森林の多面的機能の特徴 24
5 森林の機能の階層性と機能区分 26
6 森林と都市・農耕地との新たな関係 29
7 循環型社会における森林の役割 31
8 流域圏共生社会における森林・自然域 36
9 日本型森林管理の確立に向けて 38
第2節 森林の機能評価の方法 (高橋弘) 43
1 機能評価の歴史的経緯 43
2 森林の存在と機能効用、便益 47
3 森林の多面的な機能と評価の考え方 52
(1)機能区分 52
(2)評価の考え方とそのポイント 54
第3節 森林の機能区分の変遷 (長崎屋圭太) 63
1 はじめに 63
2 機能区分の大きな流れ 64
(1)森林の機能の定量化や望ましい施業の明確化に取り組んだ時期 64
(2)森林の機能に着目した整備水準や施業を計画した時期 64
(3)個々の森林に着目して機能区分(ゾーニング)を行った時期 66
3 森林の機能の定量化や望ましい施業の明確化に取り組んだ時期 67
4 森林の機能に着目した整備水準や施業を計画した時期 68
5 個々の森林に着目して機能区分(ゾーニング)を行った時期 75
(1)国有林野の機能区分(ゾーニング) 75
(2)1996(平成8)年の資源基本計画 75
(3)森林・林業基本法の制定及び森林・林業基本計画の策定 79
6 おわりに 80
第4節 持続可能な森林経営に向けた国際的な取り組み (今泉裕治) 83
1 はじめに 83
2 世界の森林の減少・劣化の進行 83
3 地球サミット—森林の多面的機能の持続的発揮への国際的な認識の確立 86
4 持続可能な森林経営の「基準・指標」 89
5 基準・指標の策定・適用に向けた取り組み—わが国の事例 94
6 今後の国際的な動きとわが国の森林・林業との関係 96
第2章 森林の評価と政策 101
第5節 国における政策評価の現状 (長崎屋圭太) 103
1 はじめに 103
2 公共事業への評価制度の導入 103
(1)事前評価 104
(2)期中の評価 104
(3)完了後の評価 104
3 政策レベルでの評価 106
(1)政策評価の目的 106
(2)政策評価の概要 106
4 これまでの政策評価の取り組みについて 108
第6節 森林整備保全事業計画と成果指標 (長崎屋圭太) 111
1 はじめに 111
2 計画の目標 112
3 計画の成果指標 114
4 各成果指標の内容 116
(1)基本的考え方 116
(2)具体的な算出方法 117
5 おわりに 128
第7節 森林の機能評価の基準づくり〜北海道の取り組み (北海道森林計画課) 131
1 評価基準の作成目的 131
2 評価基準作成までのプロセス 132
(1)プロジェクトの設置 132
(2)ケーススタディの実施 132
(3) 関係機関などからの意見聴取 132
(4)道民意見募集と基準決定 132
3 評価基準作成の考え方 135
(1) 評価対象とする森林の機能 135
(2) 評価手法 135
(3) 評価項目 135
(4) 評価手順 135
(5) 評価結果の扱い 135
4 個々の評価基準の解説 137
(1)水土保全機能 137
(2)生活環境保全機能 141
(3)生態系保全機能 145
(4)文化創造機能 150
5 評価基準の活用と今後の課題について 153
第3章 森林づくりと地域社会 161
第8節 森林整備計画と合意形成 163
Ⅰ 北海道北広島市、中頓別町の事例 (北海道森林計画課) 163
1 はじめに 163
2 北海道の森林に期待される役割 164
3 北広島市の事例(都市地域の事例) 165
(1)都市近郊森林保全協議会の取り組み 165
(2)事業の成果 166
4 中頓別町の事例(山村地域の事例) 167
(1)検討委員会の取り組み 167
(2)事業の成果 168
5 おわりに 168
Ⅱ 富山県氷見市の事例 (成田英隆) 170
1 はじめに 170
2 里山林の現状 171
3 里山林再生に向けた動き 172
4 住民活動の森林整備計画への反映 174
5 おわりに 176
第9節 住民参加による森林づくり 177
Ⅰ 神奈川県「丹沢大山総合調査」の取り組み (小宮芳男、田宮祐一) 177
1 はじめに 177
2 丹沢大山総合調査の基本方針 180
3 調査の到達目標 181
4 調査体系 182
5 目指す具体的成果 183
6 実施体制 183
7 調査団編成 184
8 スケジュール 185
9 まとめ 186
Ⅱ 「雲仙の森林」再生の取り組み (古藤秀明) 188
1 はじめに 188
2 雲仙の森林再生に向けて 190
(1)初めて見る垂木台地の印象 190
(2)どう取りかかるか 191
(3)より多くの意見を 192
3 議論、そして現場へ 192
(1)検討委員会の場 192
(2)マスメディアと反響 194
(3)日々増加するかかわり合いと議論 194
(4)代表的なボランティア活動の紹介 195
4 垂木台地森林公園の整備を終えた結果、得たもの 197
5 最後に 199
Ⅲ 高知県梼原町の地域づくり (武部広) 201
1 はじめに 201
2 森林・林業の現状 202
3 新たな森林・林業への取り組み 203
(1)梼原町森林づくり基本条例の制定 203
(2)林業版デカップリングの推進 203
(3)FSC森林認証の推進 205
(4)町産材の利用促進 206
4 森林認証材と環境価値の創造 206
5 成 果 207
6 おわりに 209
第4章 これからの森林政策 211
第10節 公共政策と評価 (横山彰) 213
1 公共政策の意義 213
(1)外部性 214
(2)公共財 216
2 公共政策の目標と政策手段 217
3 政策過程と政策評価 219
4 わが国の政策評価制度 221
5 政策評価手法 223
(1)費用便益分析 223
(2)費用便益分析の便益測定 226
(3)費用効果分析と業績測定 228
6 これからの森林政策と評価 228
第11節 機能評価と森林政策 (木平勇吉) 237
1 機能評価に重要な森林の基本的な性質 237
(1)森林が存在する要件—炭酸同化作用と土壌と生態系 237
(2)森林の広がり—林分とモザイク森林 238
(3)時間による森林の変化と安定—成長・枯損と伐採・更新 240
(4)地域の土地利用と森林—ランドスケープと環境 241
2 森林機能を評価する4つの尺度 242
(1)森林生態系保全の尺度 243
(2)個別機能ごとの尺度 245
(3)人間社会の尺度 246
(4)国際的な尺度 250
3 成果測定と森林政策 251
(1)インベントリーとモニタリング 251
(2)データベースの作成と利用 252
(3)データの解説 253
(4)森林環境教育 254
資 料 257
1.森林整備保全事業計画(平成16年6月8日閣議決定) 257
2.Forest Improvement and Conservation Works Master Plan(「森林整備保全事業計画」要旨英訳) 268
前書きなど
●「刊行に寄せて」から抜粋
政策評価、事業評価、事前評価、期中評価、事後評価などは新しい分野であるだけに、その概念はまだまだ未成熟で、人それぞれに理解度が違う。問題は、森林に対する国民の注目に応え、森林の機能をいかに定量的に示すか、である。この根源的かつ古くて新しい課題に対する、今の基本的な考え方、取り組みの現状の一端を表したのが本書である。
この分野での理論や方法については未だ確立されたものはない。しかしながら森林に携わる私達は、常にそれに挑み前進していく必要がある。21世紀に入り、森林・林業分野においても未知の領域・分野へ踏み込み、新しい概念での政策が求められている。本書は新しい森林の取り扱いを考える上で、様々な示唆を与えてくれる。森林が多面的機能を有しているのと同様に、この本も多面的機能を発揮して、様々な場面で森林、林業行政や研究の現場、森林・林業を学ぶ学生の皆さん方の間で議論を巻き起こし、新しい分野が切り開かれていくことを願っている。
林野庁森林整備部計画課長 山田壽夫
●「はじめに」から抜粋
この本は森林の機能とは何かについて、その機能評価の方法について、基本となる考え方と実務としての取り扱い方法をとりまとめたものである。この分野についての理論と方法はまだ十分には確立されていないが、現在の行政の方向についての説明、先進的な機関での試行事例の紹介、そして基礎的な理論を整理して、現在の段階でわかっている内容をできるだけ体系的にまとめた。
森林の機能や役割という用語は古くから知られていた。しかし、その機能を定量的に推定し、森林計画の内容として初めて取り扱われたのは1960年代である。その後、機能区分として行政の用語となり、また研究対象となった。それ以降、機能の種類も多くなり、重要性の順序も変わってきた。客観的に測定したり分類するモデルがつくられて、森林政策や計画立案のために役立つ材料として使われてきた。
現在、森林の機能が多様化し、特に環境面での役割への期待が大きくなるに従って、それを体系的に分類し、客観的、定量的に評価することが、政策や計画の目標づくりになくてはならなくなった。そして実行結果についての説明責任を果たすためにも、欠かせない項目となってきた。機能の評価なしには森林管理の達成度は説明できないので、仕事全体が社会的に認知されなくなってしまう。
今、行政や事業体や研究者は、多くの試みを繰り返している。この本で述べた理論と実務との隙間をうめて実行可能な実務指針(マニュアル)としてまとめるためには、もっと多くの実践と議論により課題を掘り下げる必要がある。その出発点としての役割をこの本は担っている。
編者 木平 勇吉
著者プロフィール