みどりの市民参加
森と社会の未来をひらく
木平 勇吉(編著)
A5判 197ページ 並製
定価 2,619円 (本体価格 2,381円)
ISBN978-4-88965-195-9 C0061
在庫あり
奥付の初版発行年月 2010年01月 書店発売日 2010年01月28日
解説
迷走する森林ボランティア活動の現状と課題を整理し、次のステップに向けたビジョンを描く!
紹介
迷走する森林ボランティア活動の現状と課題を整理し、次のステップに向けたビジョンを描く!
目次
はじめに 3
第1章 2000年以降の市民参加論(泉 桂子) 15
第1節 研究の射程 15
第2節 目的と方法 16
第3節 市民参加の類型あるいはその整理 17
第4節 市民参加の正統性 20
1.仮説に対する言及 20
2.仮説以外の論点の検証 23
第5節 まとめに代えて 27
第2章 住民参加・パートナーシップによる森林管理・利用システム(秋廣 敬恵) 31
第1節 本稿の目的 31
第2節 用語の整理 31
1.住民参加 32
2.パートナーシップ 32
3.協議システム 33
第3節 住民参加・パートナーシップによる森林管理・利用システム 33
1.システムの概要 33
2.日本における森林管理・利用システムの類型的整理 36
第4節 千葉県我孫子市「古利根の森」の事例 38
1.森林管理・利用システム形成の経緯 39
2.森林管理・利用システムの概要 41
3.コアシステムの運営における変化 44
4.近隣住民との合意形成 45
5.森林管理・利用システムに対する評価と課題 45
第5節 おわりに 48
第3章 里山保全のための市民参加(松村 正治) 51
第1節 はじめに―市民参加が前提とされる時代 51
第2節 市民参加の制度化という問題 53
第3節 「里山」の定義再考―「私」との関係性で決まる意味 55
第4節 里山ルネッサンスから国民参加の里山保全へ 57
第5節 市民による里山保全運動の系譜 60
第6節 協働時代に求められる里山マネジメント 63
第7節 市民参加による里山保全の行方―協働から自主管理へ 66
第4章 市民と森とを結ぶNPO法人森づくりフォーラム(吉村 妙子) 69
第1節 広がってきた森林ボランティア 69
第2節 森づくりフォーラムへの着目 70
第3節 森づくりフォーラムの変遷 72
1.森林ボランティアの黎明期と任意団体森づくりフォーラム 72
2.特定非営利活動法人森づくりフォーラムの設立 74
3.事務局基盤を整備する(2000年度~2001年度) 75
4.中間支援活動を志向し拡大成長(2002年度~2005年度) 76
5.新ビジョンを模索する(2006年度以降) 78
6.補完的視点―事業と経営状況の変化― 79
第4節 まとめ 81
第5章 みどりのコーディネーションNPOの可能性(佐藤 留美) 87
第1節 はじめに 87
第2節 市民参加とコーディネーター 88
1.コーディネーターの必要性 88
2.市民参加コーディネーターの歴史 89
3.協働型社会におけるコーディネーター 89
第3節 みどりの市民参加活動 90
第4節 コーディネーターの役割 93
1.市民参加の骨格となる仕組みづくり 93
2.市民参加の原動力となるマインドの醸成 94
第5節 東京都立野山北・六道山公園の事例 96
1.野山北・六道山公園における市民参加の背景 97
2.市民参加型のパークマネジメント 98
3.取り組みの成果 102
第6節 みどりの市民参加を促進するために 107
第7節 おわりに 108
第6章 協働による地域づくり・森林づくり―北海道下川町の試み―(柿澤 宏昭) 111
第1節 はじめに 111
第2節 下川町の概要と初期の取り組み――クラスター研究会が始まるまで 112
第3節 下川町産業クラスター研究会の発足と展開 114
第4節 クラスター研究会の「失速」 118
第5節 クラスター研究会から生まれた取り組み、そして新たな展開の萌芽 121
第6節 まとめ――これからの課題 125
第7章 参加型協議会による自然公園の統合的保護管理(谷川 潔) 129
第1節 はじめに 129
第2節 日本、イギリスとアメリカの国立公園 130
1.地域性公園制度と営造物公園制度との違い 130
2.日本に適用可能な保護管理モデル 131
第3節 レイクディストリクト国立公園の特徴 132
1.イギリスの国立公園およびレイクディストリクト国立公園 132
2.レイクディストリクト国立公園の特徴 133
第4節 自然公園の保護管理への参加型タイプ 135
1.国内外の自然公園における参加型タイプ 135
2.自然公園の参加型協議会による合意形成の必要性 136
第5節 国立公園ビジョン2030とパートナーシップ協議会 137
1.国立公園ビジョン2030(The VISION for the Lake District National Park 2006-2030) 138
2.ビジョン2030に関する国立公園事務所の考え方 138
3.国立公園パートナーシップ協議会 139
第6節 日本の自然公園における参加型統合保護管理 141
1.地域性自然公園におけるガバナンス(全体運営)の重要性 141
2.日本の自然公園に適用可能な参加型統合保護管理 142
3.参加型統合保護管理における参加型タイプ 144
4.参加型統合保護管理を導入した場合の留意点 144
5.参加型協議会の役割と参加者の制限 145/ 6.参加型協議会における合意形成のための会議運営手法 146
第7節 参加型統合保護管理を実施していく際の課題 147
1.参加型協議会での合意形成に対する認識の国内外の違い 147
2.統合的保護管理に関する対応能力向上の必要性 149
3.ビジョン2030の現在の検討状況 150
第8節 おわりに
第8章 水源環境保全における市民参加―神奈川県の参加型税制―(長谷川 朝惠) 155
はじめに 155
第1節 事業の検討過程の概要 156
1.多様な参加の場が用意された県民との議論 156
2.県議会での議論の経過概要 157
3.県民負担の決定とその特徴 159
第2節 県民参加を推進する新たな取組み「参加型税制」 160
1.全国シンポジウム分科会での議論 160
2.全国シンポジウム全体会での議論 161
第3節 「参加型税制」の県民参加を実現する場「県民会議」 163
1.県民会議の目的 163
2.県民会議の組織と構成 163
3.県民会議の活動概要 164
4.県民会議の成果と課題 165
5.「参加型税制」のさらなる充実に向けて 167
まとめ 170
第9章 市民協働による自然再生―「丹沢大山自然再生委員会」の試み―(木平 勇吉) 175
第1節 はじめに 175
第2節 丹沢の自然再生活動の背景 176
1.生態系撹乱の経緯と現状 176
2.市民参加による丹沢大山総合調査 176
3.丹沢大山自然再生委員会の構想 177
第3節 丹沢大山自然再生委員会の発足 178
第4節 再生委員会の運営と活動実績 180
1.1年目(2006年10月から2007年9月)―組織の立ち上げ期― 181
2.2年目(2007年10月から2008年9月)―協働活動の始動期― 183
3.3年目(2008年10月から2009年9月)―協働活動の定着期― 185
4.野外現場での活動実績 186
第5節 再生委員会の運営と活動の評価 186
1.計画部会の役割―科学的な専門性による協働― 186
2.県民部会の役割―会員団体による多様な活動と合意― 188
3.再生委員会の独自の役割―社会的な認知― 189
第6節 まとめ―再生委員会の将来について― 190
1.総合調査の遺産としての協働意識と科学的なデータ 190
2.協働意識を持ちつづける方法 190
3.再生委員会の仕組みと機能強化 191
4.企画力の向上 191
5.地域社会との連携 192
執筆者一覧 195
前書きなど
はじめに
自然保護や地域再生の分野でも「市民参加」という言葉が定着し、多くの人々に抵抗なく受け入れられるようになった。しかし、今日の活動実践の現実には明と暗の側面がある。「明」は、多くの組織ができて、多くの市民が多岐にわたる活動に参加して、社会に認められる制度となり、安定して発展している側面である。「暗」は、数と形が整うにつれて活動の狙いと意義が見失われ、参加者の気持ちから生気が消え、成果が見えなく閉塞感が覆い、活動が停滞し壁に行きあたっている側面である。
この両側面が「あざなえる縄」のように組み合わさりながら、さまざまな場面で葛藤しているのが現実である。そして、次の新しい段階へ向かって飛躍しなければならないのが現在の市民参加が直面している課題である。まさに転換点に立っているといえる。
さて、この本は「市民参加」について専門的な関心を持つ人々が集まった「市民参加研究会」によってまとめられたものである。研究会は2007年に始まり、4カ月ごとに集まり、参加者から提案されたテーマが討論された。参加者は自分のフィールド・組織に深くかかわり、事情をよく知り実質的なデータを持っていた。それぞれが現実をどのように受け止めて評価しているかが述べられ、将来の課題にどのように向かうかが主張された。
9人の執筆者により描かれたフィールドの状況と組織の活動実績は、特に成功したとか、他の活動の模範になる対象ではない。たしかに参加する市民、行政、土地所有者などの関係者の多大な努力が傾注されて、地域社会から信頼されて発展している。それにもかかわらず、さまざまな挫折と先の見えない閉塞感がつきまとい、多くの課題を突きつけられている。
一方、それぞれの章からは現状に安住しない緊張感と見えない解決策を模索する人々の努力が読み取れる。市民参加が「森と社会の未来をひらく」エネルギーとなることを期待したい。
2010年1月 編著者 木平勇吉
版元から一言
迷走する森林ボランティア活動の現状と課題を整理し、次のステップに向けたビジョンを描く!
著者プロフィール