森と木と人のつながりを考える

 

「天然水の森」を科学する

自然科学

サントリービジネスエキスパート(株)水科学研究所 サントリーホールディングス(株)(著/文 他)

A5判  202ページ 並製
定価 2,096円 (本体価格 1,905円)
ISBN978-4-88965-228-4 C0061
品切れ・重版未定

奥付の初版発行年月 2013年03月
書店発売日 2013年03月29日

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解説

サントリーが全国16か所・約7,600haで進めている「天然水の森」づくり。その全貌を科学的なデータとともに紹介します。

紹介

サントリーが全国16か所・約7,600haで進めている「天然水の森」づくり。その全貌を科学的なデータとともに紹介します。

目次

第1章
奥大山における「天然水の森」の管理とブナの森工場の生物多様性緑化(日置佳之・千布拓生) 11
自然に恵まれたブナの森工場
市町村、企業、国有林との協定広がる
「植生の保全性」と「レクリエーション適性」を両立
2つの評価軸に基づき5つにゾーニング
強度間伐で林床植生を増やす
地元と協働でブナの実プロジェクト
ナラ枯れ・シカの食害対策が急務
外部景観はどう改良していくか
エコツーリズムも振興する
地元の植物材料を使って緑化する
植栽後の推移を長期モニタリングしていく

第2章 
景観管理・集水域管理による森林の再生(伊藤 哲) 27
河川流量の平準化を目指して
葉量の調節で水源涵養力は向上するが…
人工林の功罪を冷静に考える
城山国有林の全貌を捉える
照葉樹林に戻すのは難しい
林業から撤退するという戦略
里山管理の視点も必要
最適な間伐を検討し、渓畔林ネットワークを修復する

第3章 
自然再生事業とは何か(島谷幸宏) 41
暮らしと自然の関係を見直す
「トトロ型国家」を望む学生が多い
高速道路を撤去して水辺を蘇らせたソウル市
ヨーロッパ最大規模・スキャーン川の氾濫システム回復
東京・多摩川の河原再生
川と氾濫原のつながりを取り戻したアザメの瀬
トキの野生復帰を支える「談義所」
水田の再生は水のシステム全体の回復から

第4章 
見えない地下水の動きを探る(辻村真貴) 53
白州工場の源流域で地下水の挙動を調べる
水循環を決める3つの要素
フロンを使って水の年代を推定する
筑波山の地下水の平均滞留時間は約23年
白州工場周辺での水の動き
地下水の年代と溶存成分には関係性がある
流域面積が大きくなるほど年代の古い水が増える
地下水は微妙なバランスの中で動き続けている
「白州10年」には地下水20年の履歴が込められている

第5章 
間伐が水源涵養機能に与える影響(恩田裕一) 63
荒廃した人工林では思い切った強度間伐が必要
木を伐れば樹冠遮断量も減少する
立木本数を減らして地下水涵養量を増やす
大面積伐採の効果を検証する貴重なケースに
樹冠遮断量と樹幹の距離には相関がある
各種の測定装置を設置して正確なデータをとる
間伐率50%後の変化をモニタリングしていく

第6章 
天王山の竹林における物質循環の解明(徳地直子) 73
物質循環とは?
里山とは?
天王山は江戸時代に多くの窒素を失った
絵図に描かれた貧弱な風景
拡大するモウソウチクの現存量と物質生産量を調べる
落葉のシーズン・周期が変わる
暗くなると落葉サイクルが乱れる
タケノコの豊凶は葉の生産と逆になる
これから生態系サービスはどうなるのか?

第7章 
ツルの渡来地を増やす(柳澤紀夫) 87
九州で唯一の渡来地・出水平野
ツルの習性
個性豊かなツル達の横顔
文化庁が用意した塒を巡る悩ましい問題
益城町の冬水田んぼにツルを呼ぶために

第8章 
虫の目から見た生物多様性の危機(奥本大三郎) 97
林床から植物がなくなりギフチョウが消えた
開発圧力に虫の立場から反対できるか
昆虫は爆発的な増減を繰り返している
温暖化でナガサキアゲハが東京に進出
丹沢のシカは笹まで食べる
A級の自然には昆虫がいない?
身近な自然=里山がなくなった
都市の自然では外来植物が好まれる
日本在来の植物を植えれば虫も集まってくる
「東京アルマス計画」を実行
環境を整えれば昆虫の多様性は回復する

第9章 
ナラ枯れとシカの食害で失われる自然(服部 保) 107
多様性植生調査法を開発
門柳山と南山城の植物群落
シカの食害で種の多様性が低下
室町時代の里山が残る川西市
林床に植物がほとんどない
拡大するナラ枯れ被害地域
兵庫県は被害が出ていなかったが…
ナラ枯れ+シカの食害で植物が消える

第10章 
マツ枯れ・ナラ枯れを炭で防ぐ策(小川 真) 123
モンゴルでもマツ枯れが拡大している
海岸のマツ林が消えていく
窒素過多で異常成長に
300年のマツは流されなかった
樹勢を回復させる炭の使い方
炭と菌根菌で治療する
豪雪地帯から広がったナラ枯れ
ナラ枯れ対策に炭を撒く
自然は動く

第11章 
シカの食害による土壌流亡を防ぐ知識と技術(石川芳治) 139
林床植生がなくなると土壌浸食が起こりやすくなる
丹沢と日光でシカ食害に関する調査を実施
下草やリターは土壌浸食を防ぎ、水の浸透率を高める
林床被覆率が30%以下になると非常に危険
シカ被害が顕著な奥多摩の惨状
現地に対策工を設置し効果を検証
「天然水の森 南アルプス」でも植生回復に取り組む

第12章 
水を育む森林の土壌特性を明らかにする(金澤晋二郎) 151
森林土壌を形成する層位の特徴
土壌の科学特性を見る--斜面地ほど水分量は少ない
酸性になると塩類の溶脱が大きくなる
鉱質土層の土壌有機物保持能力は極めて低い
土壌の硬度や三相分布の特徴
土壌の粒径組成(土性)の特徴
土性のタイプは、ほとんど砂土(Sand)に属する
容易有効水分量(PAM値)の極めて低い土壌
土壌酵素の働きも調べる
炭素代謝に関与する酵素β-グルコシダーゼ
3種類の酵素の活性を比較すると…
有機物層は微生物の宝庫
クローン解析法による細菌の微生物群集構造
F層、A層、C層の特徴
調査結果のまとめ

第13章 
路網整備を中心に林業と地域を再生する(長谷川尚史) 173
「天然水の森 きょうと南山城」の特徴
土砂が流出しやすい地域
森林管理を進めていく上での問題
なぜ森林が荒れてきたのか
まず道をつけなければ何もできない
新しいやり方で林業を再生する
林業と人との暮らしが密接にかかわる社会へ

第14章 
「自然に優しい作業道」をつくる(田邊由喜男) 191
現場に立脚した「経験知」を活かす
異なる自然条件に合わせる
一番大事なのは水対策
谷を渡るときにも一工夫
あえて「地山」を壊す
測量はしない方がいい
いかに早く自然に戻すか
経済が循環しないと山はつくれない

用語解説 201

前書きなど

地下水の未来のために

 サントリーは、水の会社です。
 いい水――いい地下水がなければ、ビールも、ウイスキーも清涼飲料も、なに一つつくることができません。
 地下水はサントリーという会社の、いわば生命線なのです。
 その生命線を守るために、サントリーでは、「天然水の森」という活動を、13都府県16箇所に広がる約7,600haの森林で行っています。他社と際立って異なる点は、この活動をCSRやボランティアではなく、基幹事業として行っているということです。
 事業である以上、当然そこには、数値目標と品質目標が必要になります。
数値目標は、「工場で汲み上げている量以上の地下水を森で育む」というもので、社内の水科学研究所の試算によると、全国で、ほぼ7,000haの涵養林が必要ということです。つまり、数値目標的にはすでに達成しているわけですが、一方、「水源涵養力の高い」「生物多様性に富んだ」「洪水土砂災害に強い」森という品質目標については、まだまだ途上にあります。そもそも、どのような整備をすれば、その目標が達成できるかというノウハウが、日本ではまだ十分に確立されているとは言えません。
 そのため、私たちは、40数人の専門家に共同研究をお願いし、整備の効果を検証しながら、順応的な管理を行うことにしています。研究の分野は、水文(すいもん)や植生、林学はもちろんのこと、土壌、土壌微生物、鳥類、哺乳類、昆虫、水中生物、砂防、GIS、航空レーザー測量、河川再生、バイオマス利用、自然に優しい作業道、山村再生などと多岐にわたっています。
 サントリーでは、それらの異分野研究の交流を図り、同時に研究成果を整備活動にすみやかに反映させていくために、年に1回、「サントリー水科学フォーラム――天然水の森を科学する」と題したシンポジウムを開催しています。
 この本は、2011年月6日から7日の2日間にわたって行われた第1回目のシンポジウムの報告書です。
 多くの研究が、まだまだ端緒についたばかりの状況ではありますが、どの研究も、単に「天然水の森」の整備に役立つだけではなく、より広く、日本の森が抱えているさまざまな問題を解決していくための示唆に富んでいるのではないかと密かに自負しています。
 森の仕事は、息が長い活動です。これらの研究と整備によって、森が「目標」に近づくまでには、10年、20年、もしかすると100年の歳月が必要かもしれませんが、どうか、長い目でお見守りいただければ、誠に幸いです。

サントリーホールディングス株式会社エコ戦略部チーフスペシャリスト 山田 健

版元から一言

サントリーが全国16か所・約7,600haで進めている「天然水の森」づくり。その全貌を科学的なデータとともに紹介します。

著者プロフィール

サントリービジネスエキスパート(株)水科学研究所 サントリーホールディングス(株)(サントリービジネスエキスパートカブスイリカガクケンキュウジョサントリーホールディングスカブ)

上記内容は本書刊行時のものです。

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