戦後紙パルプ原料調達史
早舩真智(著/文 他)
A5判 240ページ 並製
価格 2,200円 (本体価格 2,000円)
ISBN978-4-88965-264-2 C0061
在庫あり
書店発売日 2021年01月22日
解説
木材チップの需給変動を軸にグローバル経済と森林資源の行方を展望する!
紹介
木材チップの需給変動要因を解き明かし、グローバル経済と森林資源の行方を展望します!
目次
序章 研究課題と分析視角
1 本書のねらい 1
2 戦後紙・パルプ産業の特徴 2
(1)戦後日本の紙・パルプ産業の時期区分 2
(2)世界の紙・パルプ産業形態の類型化 3
(3)21世紀の国際分業構造の概況と日本の特徴 5
3 紙・パルプ産業の原料調達システム 8
(1)原料調達システムの概念 8
(2)木材資源の特殊性 9
(3)パルプ工場の立地調整 11
(4)国産チップの系列取引 12
(5)輸入チップの「開発輸入-長期契約取引」 13
4 分析視角と課題:原料調達システムにおける組織間関係 13
(1)分析視角:組織間関係の概念 13
(2)課題:木材チップ調達システムにおける組織間関係 15
(3)本書の意義と構成 17
第1章 日本の紙・板紙製品生産と消費原料の関係
第1節 紙・板紙製品需要と原料消費の変遷 23
1 戦後紙・板紙製品需要の盛衰 23
(1)紙・板紙製品需要の時期区分と概要 23
(2)高度成長期(1950~73年):印刷情報用紙,段ボール原紙の著増 24
(3)安定成長期(1974~91年) 26
(4)成熟期(1992~2007年) 27
(5)縮小期(2008~2015年):文化用紙の減少傾向 27
2 原料利用の技術革新 28
(1)原料消費の時期区分と概要 28
(2)針葉樹原木の利用 29
(3)広葉樹利用への技術革新 31
(4)木材チップ利用への転換 33
(5)古紙利用技術の発達 34
(6)輸入チップへの移行 36
(7)原料調達の縮小 38
第2節 成熟・縮小期における紙・板紙製品生産と消費原料の関係 41
1 パルプ材の適性と紙・板紙製品の原料構成 46
(1)紙・板紙製品の特徴 41
(2)パルプ材の適性 44
2 紙・板紙製品別原料使用量の推計 46
(1)紙・板紙製品種類別のパルプ構成 46
(2)1,000㎏当たりの紙・板紙製品別原料使用量の推計 48
(3)2013年における紙・板紙製品別原料消費量 50
(4)紙・パルプ製造技術の成熟と消費原料の落着 52
第2章 国産チップ調達システムの組織間関係
第1節 紙・パルプ企業の合併と立地調整 57
1 パルプ工場の立地展開 57
2 紙・パルプ産業の低収益構造 59
(1)生産体制の調整 59
(2)国産原料自給への協調行動と国内社有林の産業備林化の停滞 64
3 パルプ工場の立地調整:KP工場への転換と集中 66
(1)KP生産への転換 66
(2)KP工場の分布変化 68
(3)紙・パルプ工場の生産体制の類型化 70
(4)印刷情報用紙・KPの減産対応 74
(5)紙・パルプ企業の合併による地域内競合の削減 79
第2節 国産チップ需給環境の変遷:木材チップ供給先の収斂 82
1 木材チップ取引の組織間関係 82
(1)木材チップの流通経路 82
(2)木材チップ工場の経営形態 83
(3)木材チップ業者のグループ化・系列取引 85
2 国産チップ調達の地域的差異 87
(1)針葉樹チップの遍在性と国産材回帰 87
(2)広葉樹チップの偏在性と国産材離れ 91
3 紙・パルプ企業とチップ業者の需給環境の変化 93
(1)KP生産量と国産チップ生産量の乖離 93
(2)国産チップの地域別需給環境の変化 98
第3節 国産チップ取引における組織間関係:系列取引の態様 102
1 チップ工業の勃興:パートナーシップ的取引関係の構築 102
2 系列取引の進展:チャネル統制による木材チップ調達競争 106
(1)資金・設備貸与による製材・チップ兼業工場系列化の普及 106
(2)系列化による取引関係の強化・再編 108
3 輸入チップ卓越下の国産チップ取引:調整集荷体制への移行 113
(1)輸入チップへの転換 113
(2)国産チップ調達の合理化と集荷調整 115
(3)地域別国産チップ調達調整の差異 117
4 岩手県における広葉樹チップ系列取引関係の変遷 119
(1)系列取引による調達競争の激化 119
(2)系列取引の弛緩と相互依存関係 122
第3章 輸入チップ調達システムの組織間関係
第1節 木材チップ輸入における取引関係 127
1 輸入チップの選択要因 127
2 輸入依存度の歴史的変化 129
(1)針葉樹チップの代替材増加と輸入依存度の低下 129
(2)広葉樹チップ調達地域の多角化 130
3 輸入チップの原料調達システム 133
(1)開発輸入-長期契約取引 133
(2)木材チップ専用船の運用 135
(3)総合商社の役割の変化 137
4 海外投資事業の多様化 138
第2節 輸入チップ調達システムの構築 144
1 輸入初期の協調と競争 144
2 木材チップの開発輸入と企業間協調 147
(1)1960~70年代の企業間競争と協調 147
(2)開発輸入のための協調組織の構築 150
(3)個別企業の原料調達動向 152
3 輸入地域の多角化と産業植林の展開 154
(1)1985年以降の開発輸入の進展 154
(2)植林地の展開 158
第3節 成熟・縮小期の輸入チップ調達システムの動揺 167
1 DB-MS関係の構築と変容 167
(1)日本のDB-MS関係による資源貿易 167
(2)輸入広葉樹チップ取引における需給環境の変化 168
2 輸入チップの価格交渉 171
(1)チャンピオン交渉 171
(2)取引価格の地域間調整 171
3 長期契約取引期間の短期化 173
4 広葉樹チップ調達戦略の分化 175
(1)1990~2015年における紙・パルプ企業別の原料調達動向 175
(2)企業別の広葉樹チップ需給環境の変化と原料調達戦略 185
終章 日本の紙パルプ原料取引の歴史動態-総括と展望―
1 木材チップ取引関係の歴史動態 193
(1)本書の到達点と意義 193
(2)国産チップ調達システムにおける組織間関係の歴史動態 194
(3)輸入チップ調達システムにおける組織間関係の歴史動態 196
2 持続的な企業経営への問題選択の多様化 198
(1)原料調達問題から企業経営問題への展開 198
(2)今後の展望と課題 203
参考文献 205
あとがき 217
付表 220
索引 225
前書きなど
日本の紙・板紙生産量は戦後以来,増加傾向で推移してきたが,2000年代後半以降に減少傾向に転じた。これは戦後60年間で需要の増加を前提に形成されてきた木材チップ調達構造に転換をもたらす変化である。また,国内ではバイオマス発電による木材チップ需要の増加,海外では紙・パルプ新興国の木材チップ需要の増加があり,木材チップの需給環境は国内外でにわかに変化しつつある。
本書では,その過程で形成され,変容してきた紙・パルプ原料としての木材チップの取引関係を経営学分野における組織間関係論の観点から検討し,日本の紙・パルプ企業の持続的な原料調達戦略と国内外の森林経営への対応・課題について論じることを試みた。
本書は,筑波大学大学院修士課程(2013~15年)から筑波大学博士課程(2015~2018年)に行った日本の紙・パルプ産業の原料調達に関するに調査研究を改めて現時点の問題意識に基づき加筆・再構成したものである。
調査研究の過程で,ご多忙の折にもかかわらず,快くご協力いただいた紙・パルプ企業,総合商社,チップ業者,日本製紙連合会をはじめ各種業界団体の皆さま方には厚くお礼申し上げたい。
本書の刊行に当たり令和2年度(2020年度)科学研究費助成事業(研究成果公表促進費)学術図書(20HP5153)の交付を受けた。出版に当たり株式会社日本林業調査会の辻潔社長には,大変お世話になった。心からお礼申し上げる。
早舩真智
著者プロフィール
早舩真智(ハヤフネマサト)
1989年 埼玉県に生まれる2018年 筑波大学大学院生命環境科学研究科国際地縁技術開発科学専攻博士後期課程修了(農学)
現在 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林業経営・政策研究領域林業動向解析研究室・研究員 上記内容は本書刊行時のものです。