森と木と人のつながりを考える

 

キイチゴの世界
生活史の多様性とその適応・進化

自然科学

鈴木和次郎(著) / 平田美紗子(画、イラスト)

B5判  278ページ 並製
価格 3,850円 (本体価格 3,500円)
ISBN978-4-88965-267-3 C0061
絶版

書店発売日 2021年06月04日

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解説

イチゴ属の生活史の多様性を明らかにするため、国内外の山野を歩き調べた研究ノート。

紹介

イチゴ属の生活史の多様性を明らかにするため、国内外の山野を歩き調べた研究ノート。

目次

和次郎版「キイチゴの世界」発刊に寄せて―和次郎さん、茨木苺の道をゆく 3

第1章 キイチゴ属の研究前史 9
 1.キイチゴとの出会い 9
 2.河野昭一先生のもとで種生物学を学ぶ 14

第2章 キイチゴとは何か? 19
 1.形態分類 19
 2.染色体数からみた系統分類 23
 3.分子生物学的な系統分類 26

第3章 生活史研究の対象とした主なキイチゴ属種 31
 1.モミジイチゴ(Rubus palmatus var. coptophyllus) 31
 2.ニガイチゴ(Rubus microphyllus) 33
 3.クマイチゴ(Rubus crataegifolius) 34
 4.ナワシロイチゴ(Rubus parvifolius) 35
 5.フユイチゴ(Rubus buergeri)・ミヤマフユイチゴ(R. hakonensis) 37
 コラム1 日本の書物におけるキイチゴの歴史 39

第4章 日本産キイチゴ類の分布 41
 1.地理的分布・地史的分布 41
 2.生態学的分布 43
 3.立地的分布(棲み分け) 45

第5章 日本産キイチゴ類の生活史 47
 1.生活史 47
 コラム2 コウヤボウキ属の生活史 53
 2.季節相 55
 コラム3 異形葉 58
 3.有性繁殖(種子繁殖) 59
 4.種子生産数の推定(モミジイチゴを例に) 68
 5.地下分枝によるクローン成長 71
 6.無性繁殖(栄養繁殖) 75
 コラム4 ナワシロイチゴの曖昧な生き方 78
 7.乾物配分率の季節変化 79
 8.生活史の適応と進化 89
 コラム5 キイチゴの寿命 98

第6章 キイチゴ属個体群の構造と動態 99
 1.モミジイチゴ群落の形成過程と個体群の構造・動態 99
 コラム6 キイチゴのジェネット間競争 106
 2.フユイチゴ・ミヤマフユイチゴの個体群構造 107
 3.ゴヨウイチゴの個体群構造 113

第7章 キイチゴ類の種子生態 117
 1.種子の形態 117
 2.発芽試験の方法 119
 3.モミジイチゴの発芽特性 121
 4.日本産キイチゴ属種の発芽特性による類型化 123
 5.埋土種子の発芽 127
 6.鳥獣に採食された種子の発芽 132
 7.発芽特性の生態学的な意味(発芽戦略) 136

第8章 日本産キイチゴ属種の生活史を探る 139
 1.ホロムイイチゴ―置いてきぼりを食らった氷河時代のキイチゴ 139
 2.コガネイチゴ―太平洋を跨いで分布する草本性キイチゴ 142
 3.ヒメゴヨウイチゴ―到達困難な生育地 143
 4.ハスノハイチゴ―日本最強の美しいキイチゴ 145
 5.ビロードイチゴ―拡散を食い止めろ 147
 6.絶滅危惧植物―ゴショイチゴはいずこ? 148
 7.キソイチゴ―限られた分布の意味するもの 150
 8.カジイチゴ―トゲなしが幸いし 151
 9.ミヤマニガイチゴ―ササ藪に紛れ込んで生きる 152
 10.ミヤマモミジイチゴ―深山のキイチゴ 153
 11.ベニバナイチゴ―木本性を維持して 155
 12.エゾイチゴとその仲間たち―キイチゴの多様性 157
 13.バライチゴ―富士山山麓のキイチゴ 159
 14.ヒメバライチゴ―特徴のない“バライチゴ” 161
 15.コジキイチゴ―その北限を探る 162
 16.クサイチゴ―ヘビイチゴの果実に間違えられて 165
 17.オオバライチゴ―ヤマビルとの闘い 166
 18.クロイチゴ―果実の二色ディスプレイ 167
 19.エビガライチゴ―ルビー色の美しい果実 169
 20.キビナワシロイチゴ―夢から覚めて 171
 21.サナギイチゴ―シカにも負けず 173
 22.ゴヨウイチゴ―退化する花弁とガク片の代行 174
 23.コバノフユイチゴ―積雪環境に進出した南方系キイチゴ 176
 24.ホウロクイチゴ―足を踏み入れたら最後 177
 25.シマバライチゴ―火山とともに生きる 179
 26.そのほか、お目にかかれなかった日本産キイチゴ 182
 コラム7 岩崎灌園『本草図譜』が描くキイチゴ 185

第9章 キイチゴ類を求めて世界を旅する―世界のキイチゴ 187
 1.ナンキョクブナ林とキイチゴ―ニュージーランドの旅 187
 2.極地のキイチゴ―カナダ北極圏を行く 191
 3.サーモンベリーとの出会い―アメリカ、キイチゴの旅 196
 4.ピーターラビットとフィヨルドとキイチゴ―イギリス、ノルウェーの森 205
 5.東欧にキイチゴを求めてバルカン半島を行く―チェコからブルガリアへの旅 209
 6.マレー半島のキイチゴ―初めての熱帯キイチゴ探索 214
 7.熱帯山岳地帯のキイチゴ―ジャワ島、ボルネオ島 217
 8.マキリン山にキイチゴを求めて―フィリピン、ルソン島 221
 9.キイチゴの来た道―陸橋の反対側、朝鮮半島 225
 10.キイチゴを求め台湾中央山脈を行く 227
 コラム8 漢字に見るキイチゴ 235
 11.照葉樹林帯のキイチゴ―植物の宝庫、中国雲南省を行く 236
 12.中国安徽省・湖北省のキイチゴ 244
 13.オーストラリア、タスマニア島のキイチゴ 251

第10章 キイチゴの資源利用 255
 1.食料としての価値 255
 2.薬用植物としての価値 257
 3.園芸的な価値 257
 コラム9 アイヌ民族とキイチゴ 258

終 章 キイチゴ研究のその後―まとめに代えて 259

引用文献 264

原著論文 267

謝 辞 268

索 引 270

前書きなど

「第2章 キイチゴとは何か」から
キイチゴ類は、バラ科キイチゴ属(Genus Rubus)に属する植物種群で、その数は全世界で250種とも 700種とも言われている(Wielgorskaya, 1995)。研究者によっては3,000種を超えるという人もいる(清水、1976; 鳴橋、1992)。こうした推定種数の幅の広さは、キイチゴ類の種によっては地域的な変異が大きいことや、ヨーロッパや北アメリカに無融合生殖するグループがあり、微小種が記載された上、容易に種間交雑が起こり、雑種を作ることが挙げられる(鳴橋、1992)。その分布は熱帯地域からツンドラ地帯、低地から高山帯に及び、南極大陸を除き、アフリカ、旧大陸(アジア、ヨーロッパ)、新大陸(南北アメリカ大陸)、オセアニアとほぼ全世界に分布する(Focke, 1910, 1911, 1914; Hummer, 1996)。しかし、分布の中心は湿潤な温帯地域と見られ、種類数も多い。熱帯地域では、山岳地帯に多く分布し、低標高ではほとんど見られない。一方、局地や高地に向かうにしたがって、その数を減らしてゆく。東アジアでは、温帯から亜熱帯地域に多くのキイチゴ属種が見られる。中国大陸では台湾を含め194種のキイチゴ属を記載(中国科学院中国植物誌編纂委員会、1985)、その後のFlora of Chinaでは208種とされている(Lingdi and Boufford, 2003)。またマレーシアでは45種(Zandee and Kalkman, 1981; Kankman, 1984; 1987)、フィリピンでは17種(Real, 2016)のキイチゴ属種が記載されている。一方、南半球に移るとオセアニアの温帯地域では、オーストラリア大陸で8種(Bean, 1999)、ニュージーランドでもわずか10種である(Webb et al., 1988)。
北米には37種のキイチゴ属種が分布するが(Flora of North America Editorial Comitee, 2015)、南米では少なく、南北に長く標高差のあるチリでは2種の記載があるのみである(Flora of Chile: www.efloras.org/flora_page.aspx?flora_id=60)。ヨーロッパ地域には18種(Blamey et al., 1989)、アフリカ大陸では数が減り、中央アフリカに10種程度見られる(http://floreafriquecentrale.org/)ほかケニアのケニア山でR. keniensisが報告されている(鳴橋、1996)。ハワイ島では固有種が2種とされている(Hillebrand, 1965)。
キイチゴ属は形態的には、5数性で5枚の花弁とがく片が交互に配置される。両性花が多いが、単性花も少数ある。複数の雌ずい、雄ずいから構成されているが、種によって大きく異なる。果実は液果で、種子を1個含む多数の小核果からなる集合果実である。バラ科の中で、キイチゴ属に近縁なバラ属は、同じバラ科のリンゴ、ナシと同じように果肉の中に種子を持つなど果実の構造上の違いがある。

版元から一言

トゲの痛さもなんのその! キイチゴに魅せられて国内外の山を歩き、その「生き様」を明らかにした唯一無二の本。

著者プロフィール

鈴木和次郎(スズキワジロウ)
1950年生まれ。宇都宮大学大学院農学研究科(林学)修了。林野庁北見営林局、林業試験場、独立行政法人森林総合研究所に勤務。 専門は造林学、森林生態学。「林地雑草木の生活史」の研究をはじめ、水辺林の長期生態学的研究、針葉樹人工林の持続可能な森林管理・林業経営のモデル事業に従事。定年退職後は、福島県只見町でユネスコのMAB計画における「生物圏保存地域(呼称ユネスコエコパーク)」の登録と関連事業に携わる。主な著書に、『環境修復のための生態工学』(共著、講談社)、『主張する森林施業論』(共著、日本林業調査会)、『Ecology of riparian Forests in Japan』(共著、Springer)など。
平田美紗子(ヒラタ ミサコ)
漫画家、林野庁職員(国家公務員)
【略歴】
2002年3月:北海道大学農学部森林科学科卒
2004年3月:北海道大学大学院環境資源学専攻修了
2004年4月:農林省林野庁入庁
2005年4月:利根沼田森林管理署相俣森林事務所森林官
2007年4月:静岡森林管理署静岡森林事務所森林官
2009年4月:静岡森林管理署表富士森林事務所森林官
2010年4月~2015年3月:育児休暇
2015年4月:林野本庁渉外広報班第二渉外広報係長
2017年1月:林野本庁企画課林野図書史料館総務係長
2019年4月:北海道森林管理局企画課事業企画係長
【主な著書】
『みぢかな樹木のえほん』(公社)国土緑化推進機構編、ポプラ社発行
『ぱっと見わけ 観察を楽しむ 野鳥図鑑』ナツメ社発行(挿絵担当)
『赤谷ノート』『いきものカルタ』(株)Nikon作成(挿絵担当)
林業漫画『お山ん画』農林水産省林野庁発行、情報誌「林野」に掲載
…など

上記内容は本書刊行時のものです。

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